赤い煙草

@citychild

赤い煙草

煙草を見るとふと思い出す。

ポケットに手を突っ込み、空箱を取り出してぎゅっと握りしめる。

あの日から持ち歩いているお守り。


君は元気ですか。





ほとんど人がいない学校の喫煙所でふらふらになりながらタバコに火を付ける。


「煙草も今日で終わりだ。」


ずっと前からそう決めていたからどんな状況でもその意思は揺るがない。

泣きながら煙草に火をつけると涙が止まらないおかけでむせてしまう。


「お前その泣き方、絶対嘘だろ。」


そんなことを言いながらなぜか君がどこからともなく現れて、隣に立って同じように火をつける。


偶然と縁というものは不思議なものだ


でも、ここにくれば君に会えるかもしれないからよくここで煙草を吸うようになったんだっけ。


こうして最後の日にまた出会わせてくれて、他の人からは不好評極まりなかった煙草だけれど、感謝せざる負えない。

あれだけ涙が止まらなかったのに喫煙所を一緒に出る頃には止まっていた。


君は仲の良い同級生であり、そして同時に憧れの存在だった。


抜けたところはあるけれど、顔も性格も人望も自分にはなくて、本当にいつも羨ましかった。自分にいつも話しかけてくれるのが本当に嬉しかった。


酔った君が肩に手を回してきて、最後には

「卒業してもよろしくね」なんて言って握手をした。

近いけれど遠かった君。いつも追いかけていたな。

後ろ姿が遠くなっていく君を見送りながら待たせていた仲間たちと合流する。


きっとこれまでみたいに気軽に連絡をすることはもうないのだろう。そして、自分が何もしなければ、君から連絡がくることがないということも知っている。


でも数年に一回でいいから、新年の挨拶とともに近況ぐらいは聞きたいな。


街中で君とまた偶然と縁に繋がれて会えることを願っている。

そして、そんな風にまた出会ってしまった日のために、君なんか追い越して自分自身に恥じない人間になろうと思う。


煙草はもう吸っていない。

吸いたい銘柄も吸いたい場所も一緒に吸いたい人も、もういないから。


空箱を握りしめ、生まれ育った都会の喧騒の中を今日も歩いていく。

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