ⅩⅨ
「そう言えばミカさん」
香津が由梨の会話をぶった斬るかのようにミカに声を掛けた。普段挨拶もしない間柄だが一体何があったのか?ミカも何でしょう?と返事はするがかなり驚いた表情を見せていた。
「一昨日は迷惑掛けたみたいね」
あぁそれここで言っていい話なんだ。
「いえ、あなたがと言うより直接迷惑だったのは
「まぁそうなんだけどね、でも二人には迷惑掛かってるじゃない?」
「えぇ大迷惑でしたよ。夜九時過ぎてから訪ねてきて『会わせてくれ』、居ないと言ってお引き取り願えば中に入り込もうとする。挙句玄関前で座り込みされてこっちはドン引きです」
ミカはここぞとばかり香津に攻撃を開始する。これまで散々痛い目見てきてるから溜め込んでいた鬱憤が噴出する形となっているのだろう。折角の静かな食卓が……と思う反面、今日くらいは思う存分ぶちまかしてやればいいと思う気持ちもあったので仲裁など一切しない。
「別れ話はちゃんとしたんだけど……」
「L○○Eとかで済ませたんじゃないんですか?そりゃちょっとそこまでって距離じゃないでしょうけど、一旦は同棲まで考えてた訳ですから別れ方もそれなりの手順を踏めばこんな事に……」
「ならなかったよねぇ」
「……」
「……」
「……」
由梨の余計なひと言は二人のやり取りをぶった斬った。今そういうの要らない、私はついに蔑視の視線を送ってしまうが当人は全く気にしていない。しかもここでは唯一の部外者、いくら親しい間柄でもこれは駄目だろ。
「あんたちょっと黙っててくんない?」
香津もまた由梨に一瞥の視線を向ける。あらお二方、これまでのセオリーであれば結託なさるんじゃなくて?と余計な事を思ってみる。
「さすがにL○○Eで済ませる真似はしないよ、最低限電話はした」
香津はミカに向き直って弁明するが正直そんなのどうでもいい、ミカはミカで余計な横槍のせいで士気を失ってしまっている。
「一方的に『別れて!ガチャン!』って感じだったんじゃないのぉ?」
「黙れっつってんだろてめぇ!」
香津はこれまで聞いた事の無い粗野な口調になる。そちらさんいつの間にそうなってたんです?まぁ大した興味も無いので聞きもしないが。
「やっぱり直接会いに行くべきだよね?」
由梨はここまで空気を悪くしておいて全く怯んでいない。一体どんなメンタルしてるんだから、さすがにミカも呆れてる。
「別れたい男のために交通費使うのは不毛だと思うけど」
ミカが香津を擁護してる、と言うより話の腰を折られてそっちにイライラしてるんだと思う。もう香津への怒りを保てないようだ。
「そうかなぁ?誠意って大事なんじゃないかなぁ?」
「直接会って別れを告げるのが仮に誠意だとして、それによって逆上されて事件に繋がる場合もあるのに?いくら何でもリスキーよ。由梨さんは一昨日の事態を知らないからそんな事言えるけど、あの男相手なら電話が一番適切だったと思う」
うん、きっと別れ話になったのも昨日今日の事ではないと思う。多分だけど何ヶ月も経ってから未練を引きずっての行為だろうから一方的に香津を責めるのは違うと思う。
「立ち入った事を聞くけど、別れたのはいつの話?」
ミカはもう香津を責める気は無いみたいだ、冷静になって内容を聞いた上で判断しようとしてるみたいだ。
「四ヶ月ほど前、その時は『分かった』ってすんなり聞いてくれたのよ」
だから油断もあったのかも。香津は小さくため息を吐いた。つまりそういう事か、それなら香津がどんな別れ方をしようと結果は同じだ。私の考えが正しければ香津は決して間違った事はしていない……と思う。
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