Ⅸ
一通りの買い物を済ませて檜山と伊織の愛の巣にお邪魔した私は、久し振りに彼女と色んな話をした。女二人だと最終的には恋愛の話になるのだが、今回はエセ美談婚御曹司の話に行き着いた。何だかんだで他人様のゴシップ記事は庶民の女の大好物、自身の事を棚に上げつつ酒の肴に盛り上がる。
「奥様はご不運としか言い様がないと思うけど……結果的に事件ではなかったにせよ、離婚してたらこうはなってなかった様な気がする」
「うん、私もそう思う」
そうは言ってみたが実際のところどうだろうか? 婚外子を産んだ二人の女と轢き逃げをした女には接点があった。愛人の一人は御曹司とは高校時代からの知人だったってテレビで言ってたから奥様の面も割れているはずだ。まぁ警察だってその辺りを虱潰しに捜査した結果交通事故と断定したんだろうけど。
「でも何で今になってバレたんだろう?」
「きっと妬みとか嫉みとかがずっとあったんじゃない? 御曹司に対して。婚外子が居る時点で日常的に複数の女を侍らせてたのは今に始まった事じゃないだろうし、結婚式だ何だで養育費の支払いが滞ったとか? 多分これまでお金の力で黙らせてきたんだと思う。
ただ私が不思議に思うのは、こういうのって女の第六感が働かないものなのかな? 証拠が掴めなかろうが断固否定を貫かれようが。しかも御曹司と奥様って幼稚園から高校までの同級生だったって話じゃない? 噂話位は把握してたと考えるのが自然だと思うのよ」
「そうよね、私だって貴之君が浮気とかしてたら絶対分かる、そこまでじゃなくても女の気配って案外察知出来るものよ」
そうなの? 檜山も浮気してたんだ……ってそこに触れるのは止めておこう、男がほぼ浮気をする生き物だと言うのは永遠の愛よりも信憑性がある。
「奥様って超絶鈍感なのかしら? それとも恋は盲目状態?」
私は伊織の考えを聞いてみたくなった。
「後者の方が近いんじゃないかな? それと奥様は人生の舵取りを放棄したんだと思う。その決断をしたのは奥様自身だろうけど、そうする事で御曹司の愛情を得られると考えたのかも。きっと御曹司に潜む女の影には気付いてたけど、愛してるの言葉を信じて何から何まで言いなりになってた……憶測だけどね」
それは私も同感だ。こう言っては何だけど奥様は元々流されやすい方なんだろうと思う。人様の事を偉そうに言える立場でないのは承知の上だが、まだ二十代とお若かった訳だしその気になれば逃げ出す事だって出来たと思う。
ひょっとすると結婚の決め手が動物的なものだったのかもしれない。体の相性の良かった男がたまたま大企業の御曹司で幼馴染だった、お金で選ばなかったという立派な言い訳にはなる……か?
お勉強が出来て(首都圏の有名私立大学院卒らしい)顔も良くてお金持ちのぼんぼんが身近に居ればそりゃあ恋心の一つくらい持つと思う、幼馴染の立場を使って隣に立つこともまぁ不可能ではないだろう(嫉妬の嵐に耐えられるメンタルがあればの話だが)。
十年愛って言ってたから十代のうちに体の関係くらいはあったと思う。由梨の話だと御曹司は十代からセックス事情がお盛んだったそうだが、それさえも受け入れられるほどに入れ込んでいたのか、遊ばれていても構わないと割り切っていたのか……だとしたらこの結婚自体の決断基準が欲情だった可能性だって十分にある。婚外子がいても妻の座を守れるのであればお金には困らない、その上セックスの相性が良いとなれば別れる理由が無いと。
「麻帆ちゃん?」
伊織に呼び掛けられて私の脳内は現実に引き戻される。どうも考え事をしていると周りが見えなくなってしまう、子供の頃からの悪い癖だ。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
「そう。でも『幸せ』って何なんだろうね? 他人事のゴシップネタではあるけど真剣に考えちゃった。職場でも最近この話題で持ちきりなんだもの」
「本当そうよね、『十年愛美談婚』なんて下手に銘打っておいてこのザマだからね。玉の輿もなかなか命懸けだわ」
「ちょっとそれ不謹慎だってば」
伊織はそう言ってる割に笑ってる。それも十分不謹慎だからね、私も彼女の態度に吹き出してしまい、真剣に話してたのが嘘の様にゲラゲラと笑い合っていた。
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