傍観者

谷内 朋

 話を始める前に少し説明文を書かせて頂く。


 私の名前は薗田麻帆そのだまほ。フリーライターではあるが人気のほどはさっぱりで、掛け持ちでアルバイトをしている三十一歳の女である。はっきり言ってしまえば負け組街道をトップグループで爆走している何とも冴えない女だ。

 一つお断りしておきたいのだが、ここで書く話は主人公相手にどこぞの御曹司とやらが歯の浮くような愛の台詞を吐き腐り、極甘な恋愛街道を突き進むようなサクセスストーリーではないということだ。よって登場人物が幸せになるとは限らず、その点をまずご理解頂きたい。

 そして恋愛をするのは主人公ではなく知人だ。彼女の茶番劇を主人公視点で偏見を交えてどうなっていくのかを記した『観察日記』のようなものだと思って頂ければ分かり易いと思う。対象者の心情は全くと言っていいほど入らず、むしろ語り部となる主人公の私情をふんだんに盛り込んだものになるだろう。所詮は『観察日記』、主観まみれなのはどうかお許し頂きたく観察対象者と語り部との関係を軽く説明しておこう。

 観察対象者である西山香津にしやまかづは、父の再婚相手の連れ子である。両親は私が八歳の時に離婚、私は母に引き取られて二人三脚で慎ましやかながらもそれなりに幸せに暮らしてきた。

 母が亡くなった際、どこで聞きつけたのか父が葬儀にやって来た。事もあろうにかつて母から父を掠め取った再婚相手とその娘と共に。その娘が香津だ、これで『蛙の子は蛙』であることが何となくご理解頂けたと思う。

 それをきっかけに彼女とは薄いながらも交流を持つことになり、お陰であれやこれやと振り回される事になるのだが……お互いそうなのかも知れないが、この際それはどうでもいいこととさせて頂きたい。


 私には母が勝ち取ってくれた慰謝料のお陰で持ち家 (一軒家)がある。一人で暮らすには広すぎて、幼馴染で小学校教諭の岡部ミカおかべみかとルームシェアをしている。彼女のご両親は定年退職を機に故郷で第二の人生を謳歌しており、近くの小学校が勤務先なのでそこそこ仲良く共同生活をしている。

 そこにひょんなことというか何というか、転職で実家を出た香津が転がり込み、三人の共同生活が始まる。それから何ヶ月もしないうちに彼女の友人である吉原由梨よしわらゆりまで入り浸るようになり、結果的に四人での共同生活となってしまった。

 これまでの静かで平穏な生活は二人の乱入によってあっさりとぶち壊される。堅実型のミカと私とは正反対で奔放型の香津と由梨、お互いに気持ち良く生活するためのルールも平気で破り (二人にかかるとルールは破る為にあるらしい)、次第に家の中は無法地帯になっていく。

 せめて家事は当番制にと獣思考の二人を説得し、どうにか軌道には乗せたものの……はっきり言ってしまえばこの二人とは極力関わりたくない私、誰よりもきっちりとした性格の為にイライラを募らせるミカ、どこまでもマイペースだが文句は言わないだけマシな由梨、ルールを決めてもマナー力皆無な香津。そんな共同生活ではトラブルの火種など消しても消しても燻り続け、華麗なる傍若無人女香津が遂にやらかしてくれた。

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