ショートグラスは甘い口どけ
カゲトモ
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「そうだ、確かマスターって甘いものが好きよね?」
「よく覚えてらっしゃいますね」
そう答えてフフン、とドヤ顔で髪を耳に掛けたのは、御令嬢兼女社長の蘭子さんだ。
「当たり前でしょう? 記憶力には自信があるわ」
「それはそれは」
都合が悪いことは忘れるのに、なんてね。
「何か言いたいことでも?」
「とんでもない」
「大体チョコが好きな人が甘いものを嫌いなわけないじゃない」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
仕事帰りの蘭子さんがオーダーしたのはダーティ・マティーニ。オリーブ好きの蘭子さんにピッタリの辛口カクテル。オリーブはおまけして三つにした。
「甘いものは何でも好きでしょう?」
「そうですね、割と何でも好きな方かもしれません」
「そう、じゃぁコレ、良かったら食べて」
そう言ってバッグから出して来たのは、綺麗なリボンのかかった透明な箱。フワフワとした緩和剤の中には、淡い色の何かが入っているようだ。
「砂糖菓子なんだけど」
「砂糖菓子、ですか」
「そ。お得意様からさっき頂いたんだけど、私には甘すぎるっていうか」
浩太郎さんとの甘い時間があるからいいってか? 最近二人、とてもいい仲じゃない?
「ちょ、そんなんじゃないわよっ。本当に甘いものがあんまり食べられなくなったってだけっ。ここのお菓子は美味しいけど、私には甘すぎるだけなんだから」
はいはい、麗しいお顔が赤くなってますわよ。
「繊細で綺麗だからマスターには勿体ないんだけど」
「言ってくれますね」
「今更でしょ? ほら、開けてみて」
促されてリボンを引くと、四方に開いた箱の中から出て来たのは、淡い色の小さな花が鞠のように丸くなっている砂糖菓子だ。
花びら一つ一つが細かく作られていて、パッと見砂糖菓子と言うより綺麗な飾り物のようだ。それこそ舞妓さんの髪飾りに使われていたって分からないくらいに。
「こんなに素敵なものを頂いてよろしいんですか?」
多分買ったら結構な値段するやつだよ?
「いいのよ私は食べてあげられないし。ちゃんと食べてくれる人のもとへ行った方が、菓子職人の人も喜ぶはずだから」
「でも」
「いいのいいの。マスターが食べてあげて」
まぁそこまで言うなら、遠慮なく。
「いただきます」
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