⑥ウドさんと美少女

ざわくん減給から数日が経ったが、相変わらず店内はお客様であふれている。

ちらほらと常連のお客様が増えてきており、女好きのパティシエさんはどういう効率でスイーツを作ってるんだという回転率で仕事を進めている。気がつけばモノは出来上がっていて、彼はナンパに勤しんでいるのだ。



「いちごちゃん、今日の日替わりケーキはね季節の果物を使ってるんだ」

「もしかして、いちごとか……ですか?」

「正解!ちょっと多めに苺を盛っておくね」

「ありがとう……ございます……」


ざわくんがドM気質ということを知らない人々は、すっかり彼の人の良さに騙されている。話も上手いし、人との距離感がちょうどいいのでみんな騙されるのだ。いちごちゃんドンマイ!



店長も某新聞に釘付けだし、ざわくんはアレでも仕事はキッチリするので誰もなんとも言えない。このままだと無法地帯になるんじゃないか?そういう時にはウドがどうにかしてくれる。



「ざわくん、コレ運んで」


「はーい、今行きます!」



仏頂面というわけではないが、ほぼほぼ真顔のウドはみんなの“お父さん”という風潮がある。一緒にいて悪い気がしないのだ。



「今日はお嬢さんの所に行かなくていいのがい」



黒服さんたちにもしっかりと話しかける。



「ボスが一人側にいれば、本当は自分たちは必要ありまセンから」



なごやかなムードがそこには流れている。







けれどこの喫茶店、なかなかこの空気が続かない。



「お客様困ります……ッタタタタタタッ!痛い痛い助けて店長〜〜」

「何してんのアンタは……」



店内で騒ぎが起こっているようで、ウドはひょっこりと顔を出した。ちなみに基本的にホールには出ない人なので、ウドファンはこういうところを見逃さない。

どうやら長い黒髪の少女が、「ウドを出せ」的な内容を叫んでいるらしい。黒服さんが彼に教えてくれた。



「ウドは厨房にいるわ。でも、今は他のお客様もいるし、ウドの料理を待っている方もいるの。話があるならアイツの仕事が終わってから……ヒィッ!」




しかしあっさり解決とはいかないようだ。少女は妖しげな術を唱えて、床に貼り付ける。



「早くっ……早く出てきなさい大木!!そこに居るのは分かってるのよ!!」

「えっ、店長?店長!!なんか時間が止まってますよ……気絶しないで〜〜俺を一人にしないで〜〜」

「どさくさに紛れて変なところ触らないでちょうだい」



空気を読んでウドがホールに出てくると、そこにはこの間助けた少女がいる。この長い黒髪に見覚えがあるのは間違いではなかった。ウドは現状よりもそのことに驚いた。



安倍繋あべつなぎさんだな。何の用だ、オメさんは知らないようだけんど、俺はここの料理の全てを受け持ってんだ」


「そんなの見ればわかるわ……わらわはね、アンタに……をしにきたのよ……わらわはそもそも助けてなんて言ってないもの」



何が何だか見えてこない話に、取り残される競馬とドM。



「店長、コレってどういうことなんですかね」

「……さっぱりだわ」



そしてどこからともなく山田さんが現れた。



「では僭越ながら、私がご説明いたしましょう」

「「山田(さん)!?」」



指を鳴らすとともに、黒服さん達がフリップやなんやらを持って来て回想シーンに入る。




***




それはとある帰り道のことだ。

ウドはいつも帰宅の際に、公園に住む猫達にエサをあげてから帰るようにしている。


「ほらおまいら、餌だぞ。けぇ」


ウドは生粋の猫好きであり、猫も彼のことが大好きだ。その猫達の中でもノラにしては艶のある黒猫が、ウドのことを気に入っていた。



「どうした雪姫、今日はエラくくっついてくんなぁ」



黒猫なのに白い雪の名前をつけるところにウドらしさを感じる。ウドは雪姫と名付けた猫があまりにも愛らしいのでキスをした。






そうすると、どういうことだろう。

モクモクと煙がでてきて、その中からは長い黒髪の美少女が出てきたではないかっ!!



「え」

「え」



二人は公園に固まる。

他には誰もいない、猫達の鳴き声だけが響いている。



「ゆ、ゆきひ……」


「お黙りなさい大木!!わらわの術を解いたわね……許せない……許せないわ……」



美少女は立ち去る。

しかしナンパに会う。



「え、かっわいい〜〜。お姉さんそんなに走ってどこ行くの?」

「退きなさい三下風情が。わらわに話しかけてこないでっ!」



美少女のツンケンしている態度がいいのか、ナンパ男は勝手に盛り上がる。



「いいねぇ、もっと、もっと冷たくして……!!」

「ヤダ気持ち悪っ」



美少女にかなりドン引きされているが、悪漢は盛り上がり続ける。



「悪いな、コレは俺のツレだ」



ウドがのっそりと現れるまで、この一連の流れは続いた。




***



「何やってんのよっ!」

「イッタタタタタタタタッ、山田ちゃん助けッタタタタタタッ」


回想が終わる頃には、ざわくんはボロボロになっていた。




「わらわの唇と純情を奪ったからには……結婚しなさい!わらわの告白を受けなさい!」



かなりハチャメチャなことを黒髪ロングの美少女は言っている。


「う、ウドさ……」


ゴミ切れが心配する。






「そうだな、まずは婚約しよう」


ここに1組のカップルが出来上がった。

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