④いちごちゃん

引っ込み思案で友達も少ない私を案じて、兄がとある喫茶店のスイーツ講座に行くように促した。


甘いものは大好きだし、事前にアンケートで「タルトが食べたい」とつい欲望を書いてしまったので参加してしまった。

以前から来たいと思っていた場所であったので、実はドキドキしていた。



「終わった頃に迎えに行くから」


「ありがとうございますお兄様」



私の兄は立派な人だ。

社交的だし、何もかも私とは違う。

いつか兄のような人になれたらとは思っても、同じモノにはなれないとなんだか確信していた。



「今日はタルトを作るよ〜〜。これはパート・シュクレっていう生地が大事になって来るんだよ!」



講師の人は私と同じくらいの人で、青年よりも少年という言葉が似合いそうな人だった。髪も明るくて、華やかそうな人だった。

女の人が周りにいっぱいいるし。



「シュクレはね、フランス語で“砂糖を入れた”っていう意味なんだよ。これで器型にすると……」

「粉砂糖でサクサク感が増すんだ」

「ウドさんそこは言わせてよ〜〜」



遠くで見てるくらいが丁度いいから、私は離れた場所で見ていた。

生地をダマにならないように混ぜるのは骨が折れる作業だったけれど、1時間寝かせる間にゆっくり休めるらしいので少し安心した。スイーツには意外と力がいるらしい。



「近くで見に来ない?ウドさんもそう言ってたしさ」



ざわくんと呼ばれていた先生は、私を完成してあるケーキまで連れて来てくれた。私の手をしっかりと握ってくれて、少し恥ずかしかった。



「パート・シュクレの周りに散らしてあるのは、シュトロイゼルって言うんだ。早い話はクッキーをイメージするといいかな?タルト生地が立体的に見えるでしょ」



いたずらっぽくざわくんさんが笑うから、私は本当に恥ずかしくなった。



「ざわくんこれ、私の好きなマンゴーだよ!!」

「アンケートにマンゴー食べたいって書いてたからね」

「本当大好き!!!」



彼はすぐに色々な女の人に連れて行かれたけど、この日を忘れたくはなかった。





出来上がった後に、ざわくんが紅茶を入れてくれて私はそれを飲んだ。


「いちごちゃん、上手にできてよかったね」



私の顔は、きっと真っ赤になっていただろう。本当に恥ずかしかった。



「残りは兄さんと食べるの?」

「は、はい」

「じゃあ次は俺と食べようね〜」


時折奥から減給がどうとかが聞こえてきて、ざわくんさんがとろけた顔をしていた。私の顔もとろけてしまいそうだったから、彼と一緒だとか考えると、もっと熱くなった。



帰りに兄と店長さんが話しているのを見た。


「硝酸の妹さん?」

「そうだよ、可愛いでしょ」


兄のこういうところも恥ずかしいからやめてほしかったりもする……。

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