白黒

 扉を開けた瞬間、刺激臭が鼻を突く。

 この匂いは、硝酸を薄めた腐食液。今日のゆうはエッチングの版を作っているらしい。光の入らない窓際に置かれた机を慎重に見つめ続ける尤を確かめてから、あきらは挨拶も無く一間しかない尤の部屋に上がり、買ってきた食料を手早く、殆ど何も入っていない冷蔵庫に突っ込んだ。

 前に来たときに描いていた水墨画は、気に入らなかったのか床の上に散らばっている。真っ白な画仙紙に描かれたその一つを、彰はそっと手に取った。

 素描、木版画、リトグラフ。尤が描く色は、白と黒のみ。それでも、その絵に極彩色が見えるのは何故だろうか? 壁も床も埋め尽くすように溢れている白と黒に、彰はただただ見とれていた。





Twitter300字ss お題『色』

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