六番目の勘

 結局マサオが抜け番が嫌だと騒いだので、鹿内が代わってあげてゲームスタート。


「よーし、ユウをボッコボコにするぞ☆」


「骨の髄まで搾り取ろう」


「いや骨を残すのは甘いのでは?」


「君ら僕のことどうしたいの!?」


 何故3対1になっている。それはよろしくない。


 最初の配牌を取る。可もなく不可もなくという、普通の手だった。


「ユウ、お前の番だぞ」


「ん、ああ、ごめん」


「なんだなんだぁ?いきなり余裕ぶっかましてきやがって」


「ちょっとぼーっとしただけだよね!?」


 雀荘にいるマナーの悪い客かお前は。


「なんかこの感じ、久しぶりだなぁ」


 シンイチがしみじみと言う。


「そうだなぁ、何ヶ月ぶりだ?」


「割と半年近くかな?そりゃあ久しぶりなわけだ」


「ホント大変だったなぁ、お前も」


「も、ってなんだよ。まるでお前らも大変だったみたいじゃないか」


「あたりめぇだろ!学期末だぞ!みんなテストとかテストとかテストとかで…」


「進級危なかったのは?」


「マサオだけ」


「マサオだけだ」


「マサオだけだわ」


「ってみんな言ってますが」


「……………はい」


 何故マサオはこんなに馬鹿なんだ…。


 ま、学力がそのまま麻雀の強さになるわけじゃないけど、マサオには負ける気がしな……。


「ローン!ユウ、それだ!」


「…………」


 あれ?


「珍しいな、ユウがそんな甘い牌捨てるなんて」


「………あ、そう、だね」


 ………なんだろう。


 微妙に、頭が回ってない。


 何か、余計なことを考えている。


 と、いうか。


 今、余計なことをしているような気がする。


 なんでだ?


 僕は何を気にしているんだ?


 何を、忘れているんだ?


 ………。


 いや。


 何も、忘れているわけがない。


 だって今日は、沙夜のいない日なのだから。


 だから、早く帰る必要は。


 ない、はず。


 何も、忘れていないはず。


「おーい、ユウ」


「あ、ごめん」


 気が付けば、僕のツモ番だった。なのに僕は、全くの上の空だった。


「集中せーや」


「全くだね、ホントに悪い」


「…無理して俺らに合わせる必要ねーからな?」


「え?」


「辛いなら辛いって言えよ」


「………大丈夫」


 大丈夫。


 僕はもう、病んでない。


 立ち直ったんだ。


 自分の力で。


 沙夜の力で。


 だから何も。


 そういうことじゃない。


 ただ。


 何かを忘れている。


 そんな気が、しているだけだ。

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