第66話 スクラフト家の事情 4


「うっ……」

「ミリア大丈夫か」


 カルトが振り返ると、そこには苦しみ倒れているミリアとそばにしゃがみ、体を支えながら必死に声をかけているトロワの姿だあった。


「そんな、エルフの秘薬でもダメだったのか……」


 カトルが震える声で言うのを横に、トウヤはミリアのステータスを確認した。ミリアの生命力を示すバーの色が青くなり点滅している、苦しんでいる原因がこのバーの変色に関係あるのならステータスを見れば何かわかるのではないかと思ったのだ。

(問題はこれか?)

 ダンスや礼儀作法など関係なさそうな能力が並ぶ中、気になるスキルを発見した。


『呪いの矢:衰弱』……状態異常バットステータス『衰弱』を常時発動させる。衰弱状態から解放されると次の『呪いの矢:衰弱』を受ける。


 ついでにバットステータス『衰弱』について確認する。これは魔力や生命力などを含め身体能力が全て1まで下げられ、まともに動けなくする効果だった。では『衰弱』を治す薬を作ればいいのだろうと思い『アイテム作成』で確認してみる。これは問題なく作れた。


(あとはもう一つの効果、『衰弱』から解放されると次の『呪いの矢:衰弱』を受ける。これをなんとかしないと)


 この効果がある限り、薬を使っても意味はない。カルトの持ってきた秘薬は効果があったのだ。だから少しの間だけでも回復し、そして次の『呪いの矢』によってまた倒れたのだ。

『呪いの矢』を受けたのがトウヤだったら『能力調整』の力によって『奴隷』をオフにて効果を打ち消したように消してから衰弱を治せばいい。しかし『能力調整』は自分の能力に対してしか効果を使えない。


(僕に能力を移してしまえばいいのか)


 自分に対してしか能力を発揮できないのなら、ミリアから『呪いの矢』を自分に移してしまえばいい。そうとなれば作るのは衰弱を治す薬二つと能力を動かすアイテムだ。

 さっそくそんなアイテムが無いかと検索。


「検索結果、ヒットしたアイテム、効果は13件です」


 能力を移す系統の既存きぞんアイテムが9個とそのアイテムに使われている能力が4つ。結局はどの能力を採用するかなのでアイテムは後回しでまずは能力4つを確認。

 一つは相手の能力を手に入れられるが、相手にも能力が残ったままのコピー能力だ。これではミリアを救う事にはならないので意味はない。

 一つは相手から能力を消しさり、完全に自分のものとするもの。しかしこれは作成に使うポイントが高すぎて今は使えない。

 一つは一時的に借り受け、指定した回数や時間の経過により相手に戻ってしまうもの。これはポイントを多く消費すれば時間や回数が増えるようだが、戻ってしまうなら意味がなさそうだ。能力は使わずオフにしておくので候補には残しておく。

 最後の一つは能力を奪い封印する能力、奪ったアイテムが壊れない限り能力を取り返せないというものだ。

 これだけ奪った能力をこちらが使えるようになる能力と別物だが、今欲しい能力はむしろこの封印能力だ。


 さっそくさっき検索したアイテムの中からこの封印能力を持ったアイテムを選択して作り出す。全員の視線はミリアに向いているが、念のために周囲を確認し、腰に下げた袋に手を入れて『アイテム作成』を発動させた。トウヤの手の中にわらで出来た人形が出現した。後はこの人形の中に能力を奪いたい相手の体の一部を入れて魔力を込めながら発動に必要なキーワードと奪いたい能力を宣言すればいいだけだ。

 つぎの問題は体の一部をどう手に入れるかだ。素直に話したらもらえるというものでもない。「病気を治すので小指を切って下さい」とでも言えとでも?

 それではただのヤバい奴ではないか。


「作り直しか……」


 すぐに助けたいので能力を細かく確認せずに作ったのが悪かった。別に作ったアイテムをポイントに戻した所で損失は無い、単純にアイテム効果の一部を変更するだけのことだ。


「どうかしたのですか?」


 小さな声でツチミカドが聞いてきた。


「うん、大した事じゃないよ。ただカトルのお母さんを助けるアイテムに彼女の体の一部が必用なんで別のアイテムに作り替えようとしただけ」


 他の者に聞こえないように少し後ろにさがり小さな声で伝える。


「体の一部ですか……」


 ツチミカドが少し考える様子を見せ、


偽鎌鼬カマイタチ・レプリカ


 一つの呪文を唱えた。ツチミカドの手の中に納まる小さな生き物、尻尾が鎌になっているイタチのモンスター。前にミズシマが九個の頭を持つヘビ、ヒュドラを魔力で作り出す魔法を使っていたが、これもそれと同じような魔法生物を生み出す魔法だろう。消費された魔力は少量で発動も一瞬、さらにはトウヤが旅の前に作っておいたツチミカドが魔族だとバレない様にする腕輪の効果もあってこの魔法に誰一人気付いた様子はない。


「さ、行きなさい」


 チチッ

 イタチが一鳴きすると一瞬でミリアの元まで行き、すぐに戻って来た。

 小さくて素早いその動きをトウヤはギリギリで見れたが、トウヤでギリギリなのだからカトルやスターリン達がその存在に気付くことは無いだろう。その証拠に誰もイタチの事を騒ぎもせずミリアを心配している。

 戻って来たイタチが口にくわえていたのは一本の髪の毛。そして役目を終えたイタチは魔力に戻り消え去った。


「これでいいのでしょうか?」


 取ってきたミリアの髪の毛をトウヤに差し出す。これも体の一部には間違いない。受け取るとその髪の毛を藁人形の中に入れ、魔力を込める。


「彼の者よりスキル『呪いの矢』を奪え、呪いの人形カースドール発動」


 呪文を受けて藁人形がその効果を発動させた。この時ツチミカドが周囲の空気を操りトウヤの声が他者に聞こえないようにしていたのだがその事をトウヤが気付くことは無かった。諜報活動や隠密行動の多いツチミカドには周囲の音をや自分の気配を消す魔法を他人に聞かれないように詠唱し発動させるなど簡単な事なのだ。


 藁人形の中に『呪いの矢』が移ったのを確認し、念のためにミリアのステータスも確認する。


(うん、消えてる)


 ミリアの能力に『呪いの矢』はもうなくなっている。後は人形が壊されないように『アイテム作成』内の『ストック』能力にて異空間にアイテムを保存しておけばいいだけだ。

 だがここでトウヤは一つ気になる事があった。


(この藁人形、アイテム作成のポイントに戻したらどうなるかな?)


 異空間にしまっておけば誰も壊す事が出来ないが、保存できるアイテムが永久的に一つ埋まったままになってしまう。もしポイントに変換して『呪いの矢』も永久に消えるのならばその方がいい。

 失敗して『呪いの矢』がミリアに戻った時は戻った時だ。その時はもう一度藁人形を作ろう。そう考えるトウヤだった。

 そして結果は……。


(ポイントが増えてる!!)


 藁人形作成前のポイントから約二千ものアイテム作成ポイントが増加していた。『呪いの矢』にそれだけのポイントが込められていたという事だ。そしてミリアの方はというと、こちらにも『呪いの矢』は無かった。


(よし成功だ。後は『衰弱』を治すだけだね)


 周囲が慌てる中、トウヤは一本のガラス瓶を片手にカトルの元に向かった。こんな状況でも領主であるトロワやその奥さんに話しかけるのには抵抗のあるトウヤだった。


「カトル、この薬も試してみて」

「これは何だトウヤ」

「えっと……。そう、ラピスお姉ちゃんが「何かったら使うのよ」って言って持たしてくれた竜の秘薬だって。もしかしたらこれで治るかもしれないよ」


 中身は『衰弱』の状態異常を治すだけの薬だ。ラピスに断りもなく名前を使ってしまったが、状況が状況だしラピスならば「お姉ちゃんを頼ってくれてうれしいわ」とか言って許してくれるだろう、きっと。


(ごめんねラピスお姉ちゃん、名前を勝手に出しちゃって)


 心の中ではラピスに謝りつつガラス瓶を渡す。

 薬を受け取り、カトルは一瞬父親の方を見る。トロワも竜の秘薬と聞き試してみる価値はあるだろうと判断し、頷いた。

 すぐさまミリアの口の中に薬を流し込む。薬はその効果を発揮し、衰弱を打ち消す。そして次の『呪いの矢』がミリアを襲う事は無かった。

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