第41話 ミズシマの招待 6

 ネクタルレイクの最下層、ダンジョンマスターの部屋にてトウヤ達三人がそれぞれの相手と一対一の状況になり、左右ではシンデレラとラピスがすでにカラス頭の魔族ツチミカド、トラの魔族カネモトと戦闘を開始していた。


「フォフォフォ、ではワシらも始めるかのう」


 トウヤの前に立つ老人、ミズシマが釣竿に気を流し始めた。タンザナイトが話していた通りウキに多くの気が集まり鉄球のような形になっている。


「さ、どうするかい?」


 ミズシマの振り下ろした鉄球が迫ってくる。気に対応するには同等以上の気をぶつけて相殺そうさいするしかない。なのでトウヤは左手に気を集め鉄球を殴る。狙うのは鉄球を作る気の集まりが薄い場所。そこならばトウヤの未熟で少ない気でもなんとかなるかもしれないからだ。


「そこだ!!」


 目的の場所を見つけて攻撃を当てる。拳が気の薄い場所を侵食し、鉄球の内側に入り込んだ。そこからトウヤの気を流して鉄球を形作っている気を乱し、内側から破壊する。無事、トウヤにたどり着く前に鉄球はその姿を保てなくなり、元の釣り針とウキへと戻ってしまった。


「ほう、一カ月前はハイハイもまともに出来ない赤子のような気だったが、今は何にも掴まらずに立って歩ける程度の気の扱いか。ずいぶんと成長したようじゃな」


 ミズシマが褒めるが、これはトウヤの成長というより気の操作をフォローしてくれる腕輪のおかげなので、褒められても素直に喜べないトウヤだった。


「ではこれではどうかのう?」


 釣竿に通された気の形が変化し、糸の部分にトゲのような形になっている。これはタンザナイトに聞いていたムチのような状態だと判断したトウヤは鉄球を壊す時に伸ばしていた手でまだ変化の及んでいないウキを掴むとミズシマの方に向けて投げた。近くに置いておくとすぐに攻撃が来そうなので少し距離を作り攻撃が来た時に対応できるだけの間と時間を確保しようとしたのだった。

 ミズシマが釣竿を振ると、投げたムチがトウヤにまた迫ってくる。そのムチに向けてトウヤも左手に溜めていた気力をパンチをするように撃ちだす。さきほど鉄球を壊すのに少し気力を使ったせいで出されら気は拳より少し小さい大きさになっていた。よろよろとした気の球がムチに当たると、そこから先のムチの動きが少し変わりトウヤ立つ前の地面にぶつかった。最初の攻撃は防げたようだ。


「危なかった」


 だが油断は出来ない。ミズシマがムチを引き、次の攻撃がすぐに来る。

 トウヤは攻撃を避け続けながらアイテム作成を始めた。作るものは投げナイフ、そこに「絶対命中」「魔法封じ」「気を乱す」の三つの効果を付与する。キザキを倒した時と同じやり方だ。向こうの攻撃の手段を奪い、こちらの有利に戦う。だが気は体内のものを封印しても、一定以上の実力を持っていれば周囲の自然から気を集めて使う事が出来るらい。タンザナイトの見立てではミズシマはその一定以上の実力があるように見えた。だから封じるのでなく使い辛いように乱すしかなかった。

 三つの効果を持たせた投げナイフがトウヤの手に現れた。その数五本、絶対命中の効果は入れたが掴まれたり叩き落されたらそれまでなのでそのための予備も入れての五本だ。これでダメなら次を作ればいい。そんな思いを込めながら上げる。


「おや、ナイフなんか持っていたかのう?」


 ミズシマにはトウヤの手に突然ナイフが現れたように見えた。実際にその通りなのだが、ミズシマはそれを自分ですら見えないほど速い動きでトウヤがどこかからナイフを取り出したのだろうと思い込んだ。

 五本の投げナイフがミズシマに向かっていく。ムチを使ってそれを落とそうとしたが、ナイフはムチを避けてミズシマを狙う。


「ほほう、面白いナイフじゃな」


 途中で方向を変えたナイフを見ながら笑う。気や魔法の力は感じない、ならばミズシマに力の発動を察知させないようにする能力か、またはこの一カ月の間に特殊な能力を持つ投げナイフをスピリットファームで作らせたか。ミズシマは向かってくるナイフへの対策を考えながらムチでナイフを狙い続けてみた。だが何度やっても無意味そうだ。


「しょうがないのう、それならば」


 ミズシマが右足に魔力を込めて地面をダンと叩いた。


「大津波」


 ミズシマを中心に水の壁が現れて全方向に向けて波が進む。これならば投げナイフがどう動こうが避ける事は不可能なはず。


「次はどんな事をしてくれるのかのう」


 これに対してトウヤがどう動くのか、ミズシマはそれを楽しみに見守った。

 トウヤは迫ってくる津波を前にしてキューブを発動させた。ミズシマの元まで投げナイフが通れて、津波が通れない道を作り出す。

 ミズシマはいくつもの津波を越えてナイフが飛び出してきたことに驚いたが、釣竿を手放して飛んできたナイフを掴む事にした。


「く、一本取り逃してしもうたか」


 ミズシマの手には左右二本ずつの投げナイフが握られていた。そして五本目は左膝に刺さっている。それを認識した次の瞬間津波が勢いをなくし地面を水浸しにした。ミズシマの下半身、トウヤの太ももあたりまでが水に浸かり二人の動きを阻害する。


「なんじゃか動きが……」


 急に津波が消えたと思ったら今度は気も上手く練れなくなっている。


「魔力と気、その両方を封じたという訳か」


 自身の体に起きた事をミズシマはすぐに理解した。


「なるほどのう、キザキはこうして倒したわけじゃな。はてさて同じ方法がワシにも通用するかのう」


 ミズシマはナイフを捨て、さらに膝にくっらた分も引き抜くと釣竿を拾いなおす。

 釣竿に気を込めてムチをもう一度作り出した。


「なんで、だって気は……」


 トウヤはムチがもう一度作られた事に驚いた。ミズシマは気を乱されてまともに気を操る事が出来ないはずなのに。


「フォフォフォ、気というものはな諸刃の剣なんじゃよ。戦闘慣れしとる者との戦いでは素直に使えば気の動きから相手に次に何をするのか読まれてしまう。じゃからワシはあえてデタラメな気の操作で戦う事にも慣れとるんじゃよ」


 つまりは魔法は使えなく出来たけど、気の方は関係なく使えるらしい。


「いやいや、仲間相手に練習しとった事がまさか小僧のような素人相手にも使えるとは思わんかったわい。人生何がどこで役立つかわからんのう」


 ムチの攻撃が来る。トウヤは相手の弱点を探りながら武器を用意し始める。


「弱点は雷属性です」


 ナビの声を聴きながら雷の短剣を作るトウヤ。さらに短剣には「気を通しやすい」という効果も追加しておく。短剣の周りに気を纏ってムチを斬りつける。向こうのムチは気さえ剥がせればただの釣り糸だ。短剣の相手ではない。

 問題はその気がトウヤとミズシマでは差がありすぎて簡単に突破できないという事なのだが。

 トウヤの短剣にあたったムチはそこから方向を変え、背後からトウヤを狙う。トウヤは背中に強烈ない一撃をくらう事となった。

 あらかじめ服の防御力をあげておいたので致命傷ではないが、それでも痛いものは痛い。


「フォフォフォ、ほれ頑張ってワシをもっと楽しませておくれ」


 トウヤの動きが鈍っている所にムチによる連続攻撃が繰り出されていく。ただですら水のせいで動き辛い所をさらにダメージのせいで動けない。そのため全ての攻撃をトウヤは避けられなかった。少しでもダメージを減らすために全身に気を巡らせて防御力をあげる。

 そうして身を守りながらトウヤはこの状況をどうすれば乗り越えられるか必死に考えるのだった。

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