第40話 ミズシマの招待 5
そして一カ月はあっという間に過ぎていき、招待されたトウヤとシンデレラ、そしてネクタルレイクへの案内という理由でついてきたラピスの三人はダンジョン入口に立っていた。
湖の中心に小さな島が浮いていて、そこに地下に繋がる階段が設置された洞窟がある。そしてその小島に繋がる橋が一つ。その洞窟の中がミズシマのいるダンジョン、ネクタルレイクだ。
「フォフォフォ、よく来てくださった。さ、二人のために特別な転送装置を用意しておいた。魔王はこっちに、モンスターのお嬢ちゃんはそっちに立っておくれ」
ダンジョンに入ってすぐに現れた力の魔王配下の魔族でこのダンジョンの主、フィッシャーミズシマが現れ、入口の左右にミズシマと一緒に現れた転送用の魔法陣を指さし説明する。
「罠じゃないでしょうね?」
ラピスが怪しむ視線をミズシマに向ける。
「フォフォフォ、罠だったとして、お前さんらにそれを断る選択肢があるのかのぅ?」
ネクタルレイクに招待された時に、もし来なければスピリットファームを襲うような事を言っていた。それに今逃げたとしてもタンザナイトの元に居るのも知られているのだ、つまりトウヤは従うしかないのだ。
(イベントも戦うしかないみたいだしな……)
トウヤは修行中にイベントの内容を確認していた。その時にミズシマとの戦いも表示されていた。イベント名は『ネクタルレイクの戦い』でその先に用意されていたのは、逃げる、戦いに参加しない、戦いで負ける。いずれの場合もトウヤの死に繋がっていた。つまりは勝つしか生き残る道がないという事だ。しかも生き残ってもその先に用意されているイベントは「???」と書かれていた。これはトウヤの行動では変化せず、向こうの魔王の意思で未来がどうにでも変化してしまうためにどんな未来になるかわからないせいなのだそうだ。
だがこのイベント確認のおかげでトウヤにはわかっていることが一つある。それはミズシマと戦闘になるという事だ。つまりこの転移魔法陣に乗っても即死させられるような罠は無いという事だ。もしかしたら魔法陣に乗ると体力を奪われる、そんな罠はあるかも知れないので絶対に安心とまでは言えないのだが。
「見学のお嬢さんもどっちかの転送装置に一緒に乗るがいい。ここから一人でダンジョンマスターの部屋まで歩いていくと何カ月かかるかわからんからのう。大丈夫、行き先は透明な壁には阻まれておるが同じ部屋じゃよ。ま、ワシの言葉を信じるか信じないかはお嬢さん次第じゃがな。フォフォフォ」
ミズシマの話を信じるのならシンデレラと別の場所に送られはしないようだ。ただシンデレラはツチミカドと、トウヤはミズシマとの一対一の戦いのために戦闘の空間を半分に区切ってはいるようだ。
「そうなの、それじゃトウヤ君と一緒に行こうかしら」
シンデレラは気を習得してからこの中で一番強くなった。それは修行の相手役をしていたラピスが一番わかっていた。なので彼女は何かあっても一人で大丈夫だろうとラピスは判断しトウヤの方を選んだ。
三人がそれぞれの魔法陣に載ると魔法陣が光りだし周囲の風景が一瞬で変化した。
そこは周囲を水に囲まれた不思議な空間だった。上を見ても、左右も前も水中が見え、魚が泳いでいた。背後は土の壁になていて入口があるので、ここはダンジョンの小島から湖に飛び出た空間のようだ。魔法か何かで水が入って来ないようにしているのだろう。足元は土の地面なのだが、外の景色のせいで安全性に不安を感じるトウヤだった。
シンデレラも無事にこの空間に送られたようだ、向こうで手を振っている。
「あら、どうしてこっちに来ないのかしら?」
「さぁ、とりあえずシンデレラの所に行ってみよう」
なぜ近付いてこないのかと思ってトウヤ達がシンデレラの元に向かおうとする。
「あたっ」
トウヤが何かにぶつかった。シンデレラとは5メートルくらい距離がある場所だ。
「トウヤ君大丈夫?」
「うん、でもここに何かあるみたいで……」
トウヤが手で触れてみると、そこに何か壁のようなものがあるようだ。
その触り心地はキューブで通行不可にした場所を触っている時と似た感触だった。
「さっき透明な壁がどのうって言ってたからそれだと思う」
トウヤ達が立っている位置はほぼ部屋の中心だ。そこでちょうど半分ずつに部屋を分けているのだろう。
「声も届いていないみたいね」
シンデレラの口が動いているが声は聞こえない。向こうにもこっちの声は届いていないのだろう。
「シンデレラちゃん、聞こえる?」
ラピスがインカムを使って通話している。
「怪我とか、体に異常はない? うん、そうなの。はい、頑張るのよ」
インカムの機能は阻害されないようだ、ラピス達が普通に会話できている。シンデレラにも異常は無いようだ。本当にあの魔法陣はただこの場に呼ぶためだけのものだったようだ。
トウヤは安心するとミズシマ達の姿を探すことにした。
部屋の奥に玉座が置かれている。その椅子にはトウヤも見覚えがあった。それはスピリットファームにもあったものと同じデザインの椅子だ。ひじ掛けの所にも水晶が見えるのであれがこのダンジョンのコントロールする道具、つまりはここがダンジョンの最深部、ダンジョンマスターの部屋なのだろうと予想がついた。そして椅子の傍には五人の影、その中にはミズシマとツチミカドの姿もある。
「ちょっと、一対一の戦いじゃ無かったのかしら?」
ラピスが見覚えのない三人の事をミズシマに問うた。
「彼らはお嬢さんと同じでただの見学じゃよ」
「そうだ、後ろから不意打ちなんて卑怯な事はしねーよ、ただ単にキザキを倒した新米魔王の戦いぶりを見に来ただけだ」
椅子の傍にいる三人の内一人が声を出した。顔を覆面で隠したパンツ一丁の筋肉質な大男だ。名前の表示にはカイリキーと書かれている。
「どうしても信用できないと言うなら俺の能力『タイマンルール』を発動させてもいいぜ。能力の内容はそっちで確認してくれ魔王なら『ステータス確認』を持っているだろ?」
すぐにトウヤは相手の能力を確認する。タンザナイトの時のように特殊能力の名前で視界が埋まる事は無い。能力は『ステータス確認』『風魔法』『土魔法』『水魔法』『火魔法』『仙人』『徒手空拳』『槍術』『魔王』でけだ。魔法に関しては確認しなくても何となくわかったので、名前だけではわからない仙人を見てみると、そこには気の扱いをマスターした人間が持つ特技だった。このことからカイリキーも元人間の魔王のようだとトウヤは想像した。
「なによ偉そうに、あの変態は」
「ラピスお姉ちゃん、アイツが力の魔王カイリキーだよ」
「え、あれが!?」
まさか魔王本人が来ていると思っていなかったラピスが驚く。
「……まあいいわ。それで『タイマンルール』ってどんな効果なの?」
「あ、うん。今見るから少し待って」
カイリキーの特殊能力の中に『タイマンルール』は無かった。なので魔王の中に含まれる能力だろうと予想し、トウヤはそっちを確認し始めた。
「あった、これか」
予想通り魔王の能力をさらに確認した中に『タイマンルール』があった。その内容は誰にも邪魔されずに指定した二人が一対一で戦わなければならないという能力で誰も、それが例え能力を使った魔王本人だったとしてもそれを邪魔する事は出来ないという能力のようだ。しかも、もし邪魔をしたらその者は死に、その邪魔をした仲間側の参加者も負けた事になるようだ。そしてこの能力を使うとお互いに負けた時に相手に何かしらを差し出さなくてはならないらしく、その差し出すモノは能力発動時に決めるようだ。
トウヤは確認した内容をラピスにも伝えた。
「それで、もしその能力を使ったとしてあなた達は何を差し出し、こっちに何を望むの?」
内容を聞いたラピスがカイリキーに確認する。
「そうだな、そっちが負けたらスピリットファームを返してもらおうかね。それでそっちが勝ったら……。うん、それはそっちにまかすわ。おい新米、お前はミズシマに勝って何を望む?」
カイリキーにとってスピリットファーム一つ失うくらいなら別にたいした問題でも無かった。だがここでトウヤの命を奪おうとでもしたら、将来的に強くなったトウヤと全力で殺し合える可能性を失ってしまうのでとりあえずスピリットファームで手を打つことにした。ようは『タイマンルール』さえ発動させれば邪魔しようとする者は必ず死ぬのでそれだけでこの能力は十分だ。勝者が得るものなど敗者の呼吸を一秒止めるでもなんでもいいのだ。
「そっちがスピリットファームを返せって言うんなら、こっちもスピリットファームの安全を望むよ。もうスピリットファームを奪おうとしないって事で」
トウヤはすぐに答えた。もともとここに来た目的はスピリットファームが人質にされていたからだ。そこさえ問題解決すればトウヤとしては後はどうでもいいのである。
「おし、それじゃ『タイマンルール』を発動すっか。と言いたいところだが、その前に竜の嬢ちゃん、嬢ちゃんも戦いに参加しねーか? このままだと万が一ミズシマかツチミカドのどっちかが負けた時に一勝一敗の引き分けになっちまうからな三人なら白黒はっきりつくだろ?」
「そうね、トウヤ君もシンデレラちゃんも負けるとは思わないけど、三人の方が分かりやすいものね」
「よし、それじゃ、こっちの二人のどちらかを選べよ。それとミズシマ、ちょっと戦闘フィールドいじるぞ」
「どうぞ、オヤジの好きにしてくだされ」
カイリキーがダンジョンのコントロール用の水晶に触れると、この空間が広くなった。水中に出っ張ったエリアなので簡単に広げられるようだ。
「そうね、それじゃトラさんに相手してもらおうかしら」
ラピスが相手を選ぶとラピスとトラ魔族の姿が消え、シンデレラと反対、トウヤの左側に出来た新たな空間に強制転移させられていた。
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