まりかまじか

カゲトモ

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「いらっしゃいませ」

 金曜以外の平日は零時を過ぎれば店内が落ち着いていることが多い。もっと具体的に言うと、とりあえず暇。

 でもそれも大体月一の割合で忙しい日があったりする。それは祝日の前の日だ。

「どうぞこちらへ」

 二人組を案内し、店内はあと二席を残して満員になった。明日は休みだからと皆浮かれているのだろう。ありがたい。

 斉藤君も祝日前だからってバイトに来てくれたし、今日は忙しくてもちゃんと回せそうだ。

 ひそひそとした話し声とジャズのメロディが心地よくシェークされた空間に、またかろん、と扉のベルが鳴った。

「わ、一杯だ」

 少しだけ開かれた扉からそんな声が聞こえる。わー帰っちゃうか? あと二席なら空いているけど・・・

 なんて扉が開いて顔が見えるまであえて声を掛けずにいると、ひょっこりと顔を見せたのは良く知った顔だった。

「こんばんは」

 扉のかなり上の方から覗き込むようにして声を掛けて来たのはマリオ君だ。

「いらっしゃいませ」

「すみません、二人なんですけど、大丈夫ですか?」

 骨ばった二本の指を出して小首を傾げる長身イケメンにニッコリとして頷いた。

「もちろん、こちらへどうぞ」

 そう答えると、マリオ君はくしゃりと笑ってもう一人と一緒に入って来た。一緒に来た子はマリオ君よりも少し背の低い、ユニセックスな雰囲気の男の子だった。

「良かった、席が空いていて」

「マリオ君たちで丁度満員になりましたよ」

「わぁ、ラッキー」

 マリオ君は長身イケメンには可愛すぎる笑顔で言う。俺もマリオ君と会えてラッキー。

「何飲む?」

「先輩のオススメで」

「えー、僕いつもカシオレなんだけど」

 マリオ君なんでそこで照れくさそうにするの。良いじゃない男がカシオレ飲んでも。俺のカシオレは美味しいよ?

「じゃぁ俺もそれにします」

 ニッと歯を見せて笑う姿に、ビビッと感じた。この子、何処かで見たことある。マリオ君の後輩だから、もしかしてこの間の舞台で見たのかも?

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