こちら角川高校カクヨム部~無料から始まる変態部活~君等の頭どうなってるの?
穂高美青
第1話 健全で健康な、理想の部活動
季節は移り変わり、もうすぐ冬が終わろうとしている。
俺たちは下級生のための勧誘会準備で、部室に集まっている所だった。文化部である俺達は、今日が今年度最後の部活となる。勿論春休みも部室の使用許可は取ってはいるが一応これで一区切りとなるわけだ。
準備もひと段落つき、部員達はくだらない話で盛り上がっていた。
「一昨日なんだけどさ、夜中に悪夢を見たって、小学生の妹が抱きついてきたんだ。まだまだ可愛い所もあるなって思ってさ」
そう俺は誰に話すでもなく、部室にいる皆にむかって切り出した。突然、という訳ではない。部員達はそれぞれの兄弟の話で盛り上がっていたので、自然な流れのはずだった。
すると、場にいた全員の目が瞬時に白くなった。怖い。
別にあれなんだ。無理やり話題作ろうと思ったわけじゃなくて、ただふと思い出したってだけで……あれ、さっきまでわいわいと仲睦まじく話してたよね!?そんな流れじゃなかったよね!?
「……い、一応言っとくが、決して妄想じゃないぞ」
すると、カクヨム部副部長である
「すんすん……。いや、妄想かもしれないな」
くっこいつ、こんなに離れているのに匂いを楽しんでやがる。こんな奴に負けて堪るかっ!!
「……んで昨日学校から帰ってきたら、そんなことは無かったみたいなそっけない態度だったんで安心したんだよね」
すると今度は超絶美少女だがTS属性(つまり男)の
「それは、多分夢ですね」
そのたった一言のために、なぜ今ここで脱ぐんだ。
それからその他部員達もそれぞれ適当な捨て台詞を吐くと、俺を置いてさっさと帰って行ってしまった。あれ、なんだっけ。俺が作りたかったカクヨム部って、こういうのだっけ?
燃える夕陽が瞳に染みる……俺は部室で一人佇んでいると、背後に一人の影が。
「現実は悲しいね、宇多野君」
その言葉に後ろを振り向くと、
おいこら、ちょっと待て、お前だけには言われたくねえんですけど!?いい加減この並び立つハイヒールどもをどけろ!?
こうして、俺の最初の高校生活は幕を閉じた。こんなはずじゃ……なかったのに……。
***************
俺の名前は、
ノーマルな上にノーマルを重ねた、これでもかというほど普通の男子学生だ。
成績は中の中。スポーツも中の中。顔もこれといった特徴がなく、美男子でも、不細工でもない。嫌われもしないが、モテモテになったこともない。
勉強でも運動でも、何でも卒なくこなすことは出来るが、正直これといって「はまる」ものがない。
平均的で使い勝手が良いといえばそういうことらしく、中学の頃には部活のサポートやヘルプ役に回ることが多かったが、だからといって大いに得したと言えることはほどんどない。
それくらい冴えない、普通が特徴なのがこの俺、宇多野司良という人間だった。
そんな俺はこれからとある高校に入学することになっている。
ここはその名も、日本国立 角川高等学校。
今年ある理由で新設されたばかりの新しい高校だ。
ピカピカの校舎は全てが真新しく、煙突のような建物があったり、円を描いた巨大なホール(ちょっと劇場っぽい)があったりと、それは高校というよりもまるで大学のような外観をしている。
最先端の設備もそろっていて、普通の学校が使うような設備はもちろんだが、授業への個人専用パット導入は当たり前で、これから個々が部活動で使うであろう細かい用品類ですら充実し、寮も完備されているときたものだ。国家予算とは、恐ろしい。
制服もどこぞのデザイナーがデザインしたらしく、お洒落だ。多分。着心地がいいとはあまり言えないと思うが、誰が着てもかっこよく見えるデザインというのは、なるほど難しいものだろうと鏡の前で思ったものだ。校章は……意味は良くわからないが、フクロウのような絵が独特の形で彫られている。
俺が向かう場所と同じ方向にある大きな校舎には続々と人が集まっている。
校門を目の前にするとそこには円形に縁どられた花壇が設置してあり、その中央には一本の桜の木がこれでもかと花開いていた。
風は暖かく、この角川高校で新たな生活を送ることとなる俺と同じく、季節はまさに春本番を迎えようとしているのだった。
校舎に向かう様々な顔には、期待や希望、そして不安の文字が浮かんでいる。
きっと俺も同じ一人だろう。
だが、それでいいのだ。皆同じであるなら、恐れるものは何もない。
「……よし」
そう考えると、ポジティブにいこうと心新たに、俺は真新しい手持ちカバンを肩に担ぎ直し改めてこの角川高校へと足を向けた。
高校生活でこそこの普通キャラを脱して、普通に自由に、普通にのびのびと生きていくんだと決意を固めて。
*
「じゃあ、部の立ち上げ希望者はこの後の休み時間か放課後に職員室までくることなー」
一番最初の授業の最後に、クラス担任がそう言って教室を出て行くと、今まで静かだった生徒達は一斉に騒ぎ出した。
「俺、野球部! やっぱ野球部ねぇと高校じゃねぇよな」
「何言ってんだよ、サッカーだろ」
とか
「文化部欲しいよねぇ」
「あースマホ部とかあったらいいのに」
「わかる! ずっとスマホいじってられる」
とかあちらこちらから、色々な声が聞こえる。
だがしかし、ふふ、だがしかしだ。
俺の入りたい、いや、作りたい部はもう決まっている。
それは、俺の唯一の趣味である執筆活動を後押ししてくれる部活、その名も「カクヨム部」だ!
俺はさっそく教室を出ると、ほとんど走っているかのような速歩きで職員室に向かった。あぁ、じれったい。
しかし足を早め先生に追い付きそうになりながらも、その時の俺の脳内には、俺が書いた小説を部員が読んで、それはそれは大喜びしてくれる姿が目に浮かんでいた。
~~~~~~~~脳内~~~~~~~~~
部員A「う、うぉぉおおおお!! 宇多野君、キミ、これ凄いよ! すぐ小説の大賞狙ったほうがいいんじゃないの?」
部長こと俺「いやいや、これは趣味で書いてるだけだからさ」
部員B「えっ、そんなっ! こんなに素晴らしい作品なのに世に出さないなんて勿体ない」
部員C「そうですよ、部長。部長が出さないなら俺が部長の代わりに出しますから!」
俺こと部長「えっへへへへ、そぉ~お? そぉかなぁ、皆がそこまでいうなら……へへ、へへへへ、へへへへへへへ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おい、宇多野? おい、大丈夫か?」
いかんいかん。いつの間にか先生に追い付いていたことにも気が付かず、アホ面垂れ流していたらしい。余りに酷い顔していたのだろう、先生は心底心配そうな顔をしていた。いや、違うんだ先生。勘違いしないでくれ。俺は大丈夫だ。
俺は……そう、俺は、この幸せな夢をずっとみていたいだけなのだからっ!
「先生! 俺、カクヨム部作ります!」
このときの宇多野はまだ知る由も無かった。
後に、角川高校の人々は教師も生徒もそろって、そのカクヨム部がある部室を指して何の差異も無くこう呼びだすようになると言うことを。
変人ばかりが集まる場所、その名も……変態の館、と。
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