会議は捻れる
楠樹 暖
会議は捻れる
「第十三回新型スマートフォン企画会議を行います」
月曜の朝一から憂鬱な会議だ。毎週月曜日に行われるこの会議には、開発部部長も参加する。部長がOKを出さない限り実際の製造には取り掛かれない。過去にもこれは売れる!という企画が何度か上がったが、部長の一声で次回会議へ持越しという目に何度もあっている。
「それでは、前回の課題であった『新型スマートフォンのコンパクト化について』です」
「液晶部門との調整では、新型液晶を使用した場合、一インチサイズを小さくしても現行機種と同じ解像度を維持できるとのことです」
「それはいい!」
「でも、同じ解像度ではインパクトが無いじゃないですか。やはりカタログスペックを上げないとユーザーが買い換えてくれません」
「なるほど一理ある」
会議のメンバーは五人。新型スマートフォンの開発プロジェクトのリーダーである私の他に、会議の進行係としてプロジェクトのサブリーダー、営業のスマートフォン担当者、現行機種の開発リーダーを務めて今はメンテナンス業務を取り仕切っている課長、それに開発部長だ。
「それでは、コンパクト化を目指しつつ、解像度を上げる件について何か意見はありますか?」
「現在わが社で開発中の新型液晶では性能を出すことは難しいと思います。ここは思い切ってA社の液晶を組み入れるのはどうでしょうか?」
「それはいい!」
「でも、A社の液晶は特許を取っているじゃないですか。確か、ライセンスも高かったはず。それだと、スマートフォンの価格も高くなってしまいます」
「なるほど一理ある」
みんなが一通り発言したあとで、部長のコメントが入る。ここで、「よしそれで行こう」の一言があれば会議は終わる。それが出ないあいだは延々と会議が続いていくことになる。
何か、部長を納得させるいいアイデアはないだろうか?
「液晶をA社のものに変える意見が出ましたが、何か他に意見はありますでしょうか?」
その時、部長が資料を見ている姿が目に入った。手元に資料を近づけたり、遠ざけたりしている。印刷した文字が小さすぎたのだろうか?
……これだ!
「小型化を目指すのではなく、大型化を目指すのはどうでしょう? 今まではコンパクト化ばかりに注目していましたが、小型化することで使いにくくなっているのも事実です。ワンサイズ大きくすることで、文字も大きく見やすくなり、画面操作もやりやすくなります。しかも、端末を大きくすることでハード的にも余裕ができてスペックを上げることができます」
「それはいい!」
「確かに、その発想は無かった。実は現行機種、よく違うところのボタンを押しちゃうことも多かったじゃないですか。もうちょっと大きい方が使いやすいなとは思っていたんですよ」
おお、いつも反対意見しか言わない課長が賛同してくれた。これはまとまるのも近いか?
「なるほど一理ある」
「では、新型スマートフォンは大型化する方向で検討するということでよろしいでしょうか?」
「現行機種より、液晶部門に話を聞いてコストを計算してみます。一インチサイズアップするということでいいでしょうか?」
「それはいい!」
「でも、一インチアップということは、これくらいじゃないですか? これだと胸ポケットに入らないじゃないですか」
「なるほど一理ある。胸ポケットに入らないのは困るな」
ああ、部長が大型化に難色を示している。
「では、大型化の方向は無いことにして、小型化の方向に戻すことにします。……あっ、でもそろそろ会議室を空けないといけない時間ですね。では、今回の会議はここまでにして、続きは来週の月曜日のこの時間に行うということにします」
「はい……」
「それはいい!」
「でも、次回の議題を決めておいた方がいいじゃないですか?」
「分かりました。では、次回の第十四回新型スマートフォン企画会議の議題は『新型スマートフォンのコンパクト化について』です。みなさん、事前の準備をお願いします」
(了)
会議は捻れる 楠樹 暖 @kusunokidan
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