陽ノ下緋陽里と歳上キラー
俺がまだ、ミド姉とモモの好意に気づいていなかったときの話だ。喫茶店アルバイトで
「緋陽里さん、どうかしたんですか?」
「先日、珍しくバイト中にミスをしてしまいまして……。お客さんの服に飲み物をかけてしまいましたの……。お客さんもマスターも気遣ってくれましたが、やはり申し訳なさは拭えません」
バイトの大先輩だったからフィルターがかかっていたけど、緋陽里さんだって人間だ。ミスくらいするか。
緋陽里さんが珍しく落ち込んでいる。何とかして元気づけてあげたいけど……、後輩の俺が言うのは余計なお世話だろうか。
「緋陽里さんでも、失敗することくらいありますよ。僕やモモだって、未だに失敗することが多々ありますし」
モモは先日お会計を間違えたし、俺なんてつい先週、皿を割ってしまったばかりだ。
「いつも誰よりもきちんと仕事をこなしてくれる緋陽里さんが一回失敗したくらいで、僕らの失敗を下回るなんてこと、ないですって! 失敗なんて、してなんぼですよ!」
「
緋陽里さんはこちらを向いてくれた。ちょっとは元気づけられたかな?
「失敗してなんぼっていう考え方は、あまり良くないですね」
「え」
「失敗はやむを得なくしてしまうものかもしれませんが、お金をもらっている以上、極力ないようにしないと。少なくとも、失敗してなんぼという風に自分から口にするのは褒められたものではないですわ」
「え、あ、はい。そうですよね。すみません……」
何故か逆に怒られる俺。確かに失敗を前提に業務をするのは、マスターに失礼だ。
「けど、わたくしを元気づけようとしてくれたんですよね? ありがとうございます。嬉しいですわ」
だが、緋陽里さんは笑顔になってくれた。良かった。多少なりとも元気づけることはできたかな?
「岡村くん、やはり優しいですし、気遣いもできますわね」
「いえ、そんな。緋陽里さんはやっぱり笑顔が素敵ですからね。困った顔は見たくないですよ」
緋陽里さんの笑顔にはお客さんも従業員も、マスターも惹きつける。俺だって、彼女がニコっとしていると安心感を覚えるしね。
俺がそう言うと、緋陽里さんはポカンとした表情をして、少々頬を赤くした。
「岡村くん、キザですね」
「そ、そうですか?」
「えぇ、うっかり惚れてしまいそうですわ」
「えぇ? からかわないでくださいよ」
「うふふ」
と、緋陽里さんがいつもの調子で俺をからかっていると、バタンと扉を開けて二人の女性が入ってきた。
「
「
俺の設定上の姉たる
「え、いきなりなんですか? ただ僕は、緋陽里さんの笑顔が素敵って言っただけですよ?」
「そこだよそこ! あなたはまた歳上女性を篭絡する気!?」
「そうだよ翔平くん! これ以上ライバルはいらないんだから!」
「人を歳上キラーみたいに言わないでくださいよ。心外な」
「「いや、実際そうでしょう!?」」
「??」
二人とも声を合わせてそう言った。篭絡って……、ミド姉みたいにブラコンに目覚める人の方が圧倒的に少数だと思うんだけど……。てか、モモもなんでそんなに必死なんだ? やっぱりお前もミド姉みたいに姉になりたいの?
俺がミド姉と付き合い始めるまで、二人の言葉の意味を理解することはできないでいた俺であった。
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