【季節ネタ】花森翠とみどりの日、昭和の日

「翔ちゃん、今日って何の日か知ってる?」

「今日ですか? えーっと、確か……」


 ある晴れた休日。今日は日本が定める最大規模の連休のちょうど真ん中の日だ。いつものように俺、岡村翔平おかむらしょうへいの設定上の姉である花森翠はなもりみどりさんと駅から歩いてミド姉のマンションに向かっていた時、唐突に出されたミド姉の質問。俺は今日がゴールデンウィークの何日目かを思い出しながら答える。


「ゴールデンウィークの二日目なので、『国民の休日』でしたっけ?」

「もぉ~、違うよ翔ちゃん。今日は『みどりの日』でしょ?」

「あれ? そうでしたっけ?」


 期待していた答えと違っていたことに不服だったミド姉が、頬をふくらませてプリプリしている。そういえば、五月四日はけっこう前に『国民の休日』から『みどりの日』に名称が変わったんだっけか?


「すみません、ミド姉。どうも『みどりの日』って四月二九日のイメージが強いんですよね」

「もぉ~、しょうがないな~。まぁ、その気持ちは十分に分かるけどね。これを機会にしっかり覚えておいてね!」

「そうですね。なんたってミド姉の名前が使われている日なんですもんね!」

「そうよ! だから今日は『お姉ちゃんの日』なのよ! ね、翔ちゃん♪」


 そう言うとミド姉は、俺に抱きついて頬ずりしようとしてくる。


「うわ! いきなり抱きついてこないでくださいよ!」

「だって今日は『お姉ちゃんの日』だもの! 弟を愛でる日でもいいじゃない?」

「それは話が飛躍しすぎでしょう!? おね、……『姉の日』なんて存在しないですから!」


 危ない危ない。一瞬『お姉ちゃん』って言いそうになった。ミド姉の前で『お姉ちゃん』って口にすると血を吐くから気を付けないとね。


「けど、ちょっと残念……」

「何がですか?」

「『みどりの日』が四月二九日から五月四日に移動してしまったことよ。私、実は四月二九日が誕生日だからさ」

「そうだったんですか!? すみません、祝ってあげられなくて! 遅れましたが、おめでとうございます!」

「あ、うん! ありがとう♪ 嬉しいわ! けど、別に祝って欲しいから言ったんじゃなくてね。あぁ、けどそうは言っても翔ちゃんに祝って欲しいかも……。けど、別におねだりしているわけじゃなくて! う~ん、う~ん……」


 何やらうちの設定上の姉がうなっている。俺に気を遣わせまいとしているんだろう。今度何かプレゼントしよう。

 とまあそれはいいとして、話が横道にそれてしまった。ミド姉もそれに気づいたのか、こほんと咳払いをして話の軌道修正をする。


「とまあ、それは置いておいて。今って四月二九日は『昭和の日』になっているでしょう? 私の名前の由来って『みどりの日』に生まれたからっていうのも理由の一つなのよね。それが、名前が変わってしまってちょっと残念だなって」

「なるほど、確かにそうかもしれないですね。これじゃあ花森『昭和』という名前になってしまいますしね」

「もぉ~、ならないよ~! 翔ちゃんのいじわる!」


 いたずらっぽく笑ってそうミド姉をいじってあげると、ミド姉は期待通りの反応をする。表情もコロコロ変わって本当に可愛い先輩だな。


「あ、けど花森昭和だったら、私のニックネームも『しょうちゃん』になるわね! しょうちゃんとおそろいよ♪」

「ミド姉、それでいいんですか……?」


 打って変わってポジティブシンキングを始めるミド姉。どこまでも面白い発想力の姉に今度はこっちからツッコミを入れてしまうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る