法律少女の裁定行脚(ジャッジメント)

五五五

プロローグ

 少女にとって、目の前の本はあまりにも〈重い〉ものだった。

 憧れを抱き、いつか自分が受け継ぐと信じていた。だが、自分はそれに〈足りない〉とも感じていた。だからこそ、彼女は自らを律し、鍛え上げてきたのだ。

「アリシア=アリム=アシュリアルよ。ここに汝を、正統なる法の守護者と認める。さあ、全てを戒める〈鋼鉄の書〉を手に取り、大いなる誓いを立てるのだ」

 王冠を戴く若き皇帝は、少女――アリシアに向かって告げる。

 アリシアは自ら歩み出て、台の上に置かれた一冊の本に手を置いた。

 鈍色と茶褐色にまみれた、一冊の古い本――彼女が憧れ、焦がれ続けたものが、ようやく目の前に……。

 感慨にふけりたい気分を抑え、アリシアは静かに息を吸う。そして約束された言葉を、ゆっくりと――だが、力強く――口にした。

「我が名はアリシア=アリム=アシュリアル。法の神〈ロースウェル〉と、我が主ガーランド二世陛下に誓う。バストラード帝国の平和と正義を守るため、この身は主の盾として、この魂は主の剣として――命尽きるその時まで、全てを捧げることを!」

 大いなる宣誓が響き渡る。同時に、彼女は目の前の――錆にまみれた分厚い本を持ち上げた。

 その様子を周りで見ていた者たちからは、どよめきが湧き起こる。なぜなら、その本は持ち上げられるはずがない物だからだ――彼女には、決して。

 だが、彼女は持ち上げ、そして天にかざす。「この本は私のものである」と、その場の全員に誇示するように。

 そんな彼女を、皇帝だけは静かに――微笑みを浮かべながら眺めていた。

「バストラーデ帝国皇帝ガーランド二世の名の元に、この者を〈六法の守護者〉と認めよう。異議ある者は前に出よ!」

 皇帝の声に、どよめきは消え失せる。

 だが、そんな周りの様子を、アリシアは全く気にかけなかった。

 ――ここから、私の全てが始まるんだ!

 その想いだけが、少女の世界を照らし出していた。

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