第6話 世界が動いた日

ある日、そんな彼が休日の寒い日、出先で花を買っていた。

 彼女は1年近くずっと一緒に居たはずなのに、いつの間に彼女が出来たのかと、少しザワつく心を押し込めて、いつも通り彼の物に憑いて行った。

 よく晴れた寒い日、昨日の雪が残って、白くキラキラと反射をしていた。目が眩む思いがした彼女は思わず目を閉じた。

 次に目を開けると、彼女は一人で観覧車に乗っている彼の隣にいた。

「男が一人で観覧車とか不審者じゃん。」と思わず言ってしまったが、彼にはもちろん届くことはなかった。透明でもいいことあるねと言いながら、彼の隣に座りなおす。彼の手には、いつの間にか手に持っていた花束はない。

「分かった!告白失敗したのか!」

 そんな失礼極まりないことさえ言ったって彼にはもちろん届かない。

 そんなことはとっくの昔から分かっていて、彼女はわざと目の前で言っているのだった。

 …ただ彼の視界に入りたくて。

 どんな子が好きなの?

 その子はどんな子だった?

 その子はなんで君を選ばなかったの?

 君はこんなにもいい人なのに…と彼女は彼の向かい側に座りなおす。すると、いつも黙っている彼がふと

「全てに意味があるんだよ」

 と声を震わせ、静かに呟いていた。


 彼は家に帰り、彼女が憑いてから初めてお酒を飲んでいた。お酒が弱い彼は買ってきたチューハイを二缶出し、一缶飲みきった。

「お酒強くないんでしょ?二缶目も飲める?大丈夫?」

 そんなことを言う彼女の横を通り過ぎ、彼は本棚から何かを取り出し開いた。淡白で変化のない彼との生活で新しいものが出ることはほとんどない。新しい物にわくわくした彼女は彼の背後から覗き込んだ。

「っ…!」

 そこには彼女と彼が写っていた。

「私…?」

 お酒、観覧車、仏壇、カバン、ミサンガ、ネクタイ…

「全て私だ。」

 忘れていた記憶がまるでその忘れていた時間を取り戻すかのように、一気に押し寄せてくる。

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