第1話 出会い

交通事故で記憶を失い入院している僕は今日から一人部屋の病室から二人部屋へとに移されることになったみたいだ。



聞いた話によると、高校へ登校している最中、運悪く事故に逢い、高校二年生の始業式以降の記憶がすっぽりと抜け落ちているらしい。(なんとも不幸な話だ。こっちから願った訳でもないのに。)



そんなことを考えながら看護師さんのあとをついていくと、病室に到着したらしい。病室の入口にはこれから退院までを一緒に過ごすことになるであろう人の名前が書いてあったが、見ようとしたとには看護師さんに引っ張られて見ることが出来なかった。少しだけ(そう、少しだけだ)気にはなったが知らなくても困ることはないだろうと割り切って気にしないことにした。



看護師さんにから病室の説明を受け終わり、やることがなくなった僕は夕食までの無駄に長い時間を読書をして潰すことにした。しかし、全治二ヶ月の怪我を負った僕にとってちょっとした病室の移動で活動限界に達してしまったらしく、すぐに寝てしまったらしい。












.........

「おはよう。新入りくん。ほら、起きて?」

誰かの鈴のように透き通って響く声が聞こえた。


「...ぅー..........。」

「....ん?」

微かに聞こえる吐息の音、どこか懐かしい甘い香り、心地よくも感じる重みで意識が覚醒する。


今思えば、そのどれもか失った記憶の中で誰かと一致した。


恐る恐る目を開けると、淡く頬を染めた美少女と目が合った。

窓を開けたまま寝ていたせいか病室の中には春の涼しさと桜の花びらが落ちていた。


「やっと起きたね、ねぼすけさん」

僕の体にまたがる格好でベッドの上にいる彼女は甘ったるい香りを振りまきながら(床ドンの格好で)僕を見下ろす。



「君は誰?」

内心超焦りながらも僕は聞いた。

「私は凛。椎名凛。今日からよろしくね。」

彼女は頬を染めたまま僕に微笑んだ。

僕は平静を保ちつつ、(顔は真っ赤だったろうが)

「よ、よろしく」

と返すと、彼女は嬉しそうにいっそう頬を緩ませた。







僕はこの日の彼女の笑顔を忘れることはないだろう。

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桜の病室で はるた @sota-m0207

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