戯言のような日記

@fall168hyuuga

少女はアイスを食べながら

夏は蝉の声しか記憶にないような、何処かへ行った記憶があるような、物的証拠はあっても、言葉に出そうとすると途中で詰まってしまい、絞り切ったレモンのカスみたいな答えしか出せなくなる。



馬鹿みたいに笑って、笑いものにされずっとずっと何処かへ行きたかった。どこかって何処なんだろう。近くのコンビニかもしれない。知らない店員さんから金額を言い渡されるときに同情するんだ、「お疲れ様」って。余計なお世話なんて知ったこっちゃない。私が勝手に言いたいだけなんだけど。


錆びた赤色の自転車で出掛けた。行き先はこれから決めようと思った。中学校の前を通り過ぎると生徒の声が聞こえた。部活だろうか。立ち止まり、太陽を睨んだ。照りつける日差しがとても憎らしい。私はこんな時に夏を感じるのだと、毎年のように考えて、毎年のように忘れているのだろう。

立ち止まり続けていると知り合いの影が見えそうだから、私は自転車のペダルを漕ぎ出した。見えないものを怖がる癖は未だ治らない。


百円玉だと思っていた小銭が五十円玉だったときに私は絶望を感じる。人は簡単に絶望を味わえるし、割とそこら辺に絶望は居るものだ。知らないうちに共存している。拒絶をしようとしているのは案外私達のほうなのかもしれなかった。(何処かの言葉をわたしはいつも借りていた)

そして私は高めのアイスは諦めた。さらばハーゲンダッツ抹茶味。150円なら良かったのに。来月まで待っていてくれよ。


近くの公園で安価のアイス(バニラ)を食べる。垂れる汗を拭いながらのハードワークをこなす私は天才なのかもしれない。150円ぶんの幸せを摂取している感覚をじっくりと味わいながら、ベンチの下の日陰でせっせと働くアリを見ていた。アリは何処かのコンビニの店員と似ている気がして、生きるのに必死なんだと今更気づいた。きっと遠い遠い昔に親戚だったんだ。ふふ、と少し笑い、勝手な納得をして、食べ終わったアイスのカップをゴミ箱に放り込んだ。こんな調子じゃ、夏が終わるまでに私は溶けてしまいしそうだ。

相変わらず太陽は人類を嘲るように私達を照らしていた。

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