美女の計算式

カゲトモ

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「あら、こんな時間に出会うなんて珍しいわね」

 まだ陽も上がりきっていなくて、アーケードを通り抜ける風が冷たい時間に、美女から突然声を掛けられた。

 珍しい・・・? え、ダレ?

 黒く艶やかな長い髪と、落ち着いたグレーのコートを身に纏った立ち姿の綺麗な女性。こんな人知っていたっけ? お客様、という可能性もなくはないけど、話し口調からしてお客様でも常連の可能性だし、だいたい俺まだ制服ですらないし・・・なんて一瞬で目の前の美女について脳内会議。

 とりあえず、知っている体でやり過ごすしか「誰か分からなかった?」

「いやっ」

 俺ってそんなに分かり易い表情しているのかな。

 美女は見透かしたように口角を上げると、ハイヒールをツカツカと鳴らせて近づいて来た。

 誰だっけ誰だっけ誰だっけ。あ、なんか見覚えあるような、気がするけど、どこの誰だっ。

「だめよ、バーテンダーなんだから、誰か分からなくったって一瞬で笑顔の表情にしなくちゃ」

 俺のことバーテンダーって知っている?

「今の営業スマイルは合格だけどね」

 あ、この口調。もしかして?

「祥子さんっ?」

「もう、私の顔忘れちゃったのかと思って悲しかった」

「いや、そんなことは」

 人気クラブのママである祥子さんの顔を忘れる事なんて、男なら絶対にないと断言できるくらい綺麗だもの!

「その、いつもと雰囲気が違っていたから」

 だって今の祥子さんは完全にオフスタイルじゃないか。メイクだって凄く薄いし、第一着物じゃないし、髪形もアップじゃなくて下ろしているじゃないか。そういうところ、男は鈍感なんだよっ。

「まぁそうよね。だって私、今すっぴんだもん。分からないのはあたり「えっすっぴんなんですかっ!?」

「ちょっ花菱君声が大きいっ!」

「すみませんっ」

 祥子さんの焦った顔を見たのは初めてかもしれない! いや、そんなことよりもこれですっぴんっ!? 薄化粧とかでも無くてっ!? これがホントの美魔女ってやつかよ。どんな物食べたらこんなに綺麗になるの。

「恥ずかしいからあんまり見ないで頂戴」

 見るなと言われましても、大体すっぴんで歩いている祥子さんがわる・・・いや、恥じらう祥子さんが見られたからもうそれでいい。

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