王城までの道のり
エリカとリーベルトが訪ねてきた次の日。徒歩の騎士はあらざる噂を振りまいて店に悪影響が出かねないと思ったジロは、人目を避けるように旅人が街道上からいなくなる、午後も遅い時間から王都に向け出発する。
腕に覚えあるジロには、夜盗や魔物襲撃の心配はしなかった。
夜道で一度だけ巡回の兵士達に身分を明かすために立ち止まった事以外は、夜道には必須の
休むことなく夜通し歩いた為、東天が白む頃に王都が見えてくる。
ルイネに近づくとポツン、ポツンと農家が増えだし舗装されていない私道の枝道が増えてくる。そこからさらに進むと道の側に小さな検問所がある。その少し奥には草に覆われたゆるやかな空堀が掘られ、街道には比較的新しい石橋がかかっている。
石橋の対岸には石や土がただ乱雑に重ねられただけの腰より少し高い程度の塀が設けられている。
その内側からを、王都ルイネと呼ぶ。
ルイネ王都は拡大してきた。現在の大陸情勢は、日の出の勢いを長年維持するキヌサンに押されペール王国からもキヌサンに人が流出し始めているため、王都の拡張は緩やかに止まりつつある。
そしてルイネ王都は、どの時代においても常に一番外側に、まず堀が掘られる。
王都の人口が増加するたびにその外周に堀が掘られた。
現在の最外周は掘られてから五十余年あまりが経ち、粗雑な塀は街道沿いにはあるが、全ての外周を覆うまでにはいたっておらず、石工ギルドによる国家事業である防壁構築の工事はいまだに続いている。
その堀は現在、三層あり、最外周部の検問所には入都を望む者達が、通行証の発行や、軽めの審査を受ける検問所がある。
ここは余程の怪しい人物、あるいはその逆に高貴に見える人物達や大荷物でないかぎり呼び止められない。高貴な人物の場合、その到着を内にある残り二つの検問所に早馬を走らせるために、丁寧な対応をする騎士によって呼び止められる。
その他は大抵、兵士が担当する。ジロも明け方直後という事もあり兵士に呼び止められたが、身分を照会すると、リーベルトがすでに到着を伝えていたらしく、通行証の木札をすぐに渡され、何事もなく通過した。
だが、この検問所の通過は旅人にとって必須というわけでもない。
三層の堀の中で最も内側の水掘の内側にそびえ立つ高さ20mの城壁(ルイネ内壁)からを、貴族達は皆、ここから内部を王都と呼ぶのだが、ルイネ内壁への用向きが無い者などは検問所を通らずに街へと入る。
検問所はあくまで王城への検問であり、城下町への検問ではない。
よって大抵の旅人は検問所手前の枝道を進み、荒れて細い街道から王都の城下町へと向かう。
日中などはそちらの方が人通りが多くなる場合もある。
ジロはさらに進む。農家が減り、人家や商家や、大きな敷地を持ち、店構えが立派な宿屋が街道沿いに増え始めて、家々が隙間なく立ち並ぶようになった所に第二の検問所がある。
ここでは街道を行く者すべてが呼び止められ、荷は厳重に調べられる。
ジロがそこに着いた時は早朝であったが、すでに宿などに滞在していた商人達や旅人でごった返していた。
のんびりと三十分ほど待った所でとジロの番となる。
第一検問所は近衛騎士団の管轄であったが、それよりも外、第二・第三検問所や、王国全土の街道に一定間隔で建つ街道詰め所は、すべての貴族が費用を分担して、王が運営・管理するに成り立つ街道警備隊が担当する。
街道警備隊の構成人員の
王都の検問所の場合は詰め所で一番地位の高い騎士によって派閥の色が変わる。
ジロの店から最短のこの検問所は、リスマー派閥の騎士が検問所のトップであるので、通行証木札を交換し、ちょっとした身体検査を受けただけで通り抜ける事ができた。
最敬礼で見送られるというおまけつきだった。
ルイネ王都でもっとも活気が溢れるのが、第一検問所と第二検問所の間に広がる
通りによっては昼でも日の差さない場所もある。細道はくもの糸のように様々な方向へと伸び、土地勘のない旅人が主要な道を外れればたちまち迷路と化す。
商人や旅人、ルイネ市民で道はごった返し、ありとあらゆる広場で市場が立つ。倉庫街も住宅街も商業地もなく、すべてがごった煮のように溶け合っている。
ジロは落ちぶれて以来王都の定宿と決めてある、このエリアでもっとも治安が悪い場所にある安宿で一室を借り、昼まで仮眠をとろうと汚れたベッドにその身を投じるとすぐに眠りに落ちた。
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