家出少女と無気力な俺
三月のうさぎ
第1話「とんでもない拾い…人??」
「お金持ちのちょっとエッチな年上のお姉さんに養ってもらいてぇ」
洗濯物とごみのため足場がなくなったリビングを見ながらふとそんなことを思った。
中学の時にとある問題を起こし、地元の高校には進めなって上京して進学し、はや一年。
生活費を稼ぐためにバイトをしながら、慣れない家事に手を出したりもしたが長続きはしなかった。
1か月ほどで家事をするのが面倒になり、そろそろ何とかしなければいけないと思うたび、別に生活できないわけではないからいいか、と思って一年間も放置してしまった。
そこで三か月ほど前に思いついたのがお金持ちの年上のお姉さんに養ってもらうということだ。
確かに世間ではそれを「ヒモ」と呼ぶのかもしれない。けれどいいじゃないか「ヒモ」。何という甘美な響き。もちろん俺の進路調査の紙には第一から第三希望まで「ヒモ」と書いてある。まぁ担任にはどやされてしまったが彼女にはわからないのだろう、この崇高な夢が。
「おっと、ついついトリップしすぎた。ってもう8時10分じゃないか。やべぇ遅刻する。」
寝起きから俺の崇高な夢へと思いをはせているうちに遅刻ギリギリの時間になってしまったようだ。俺は急いで昨日買ってきたコンビニの弁当をかきこんで家を出た。
「八千代、八千代颯は今日も遅刻か。」
そんな担任の声が廊下にまで聞こえ俺は慌てて教室のドアを開けた。
「遅かったな、八千代。今日で遅刻何回目か覚えているか。」
恐ろしげな声でそんなことを言うのはうちの担任である野田遥先生である。美人が怒ると怖いというのは本当で、いつものきりっとした美人な顔を怒りに歪めているとついついビビってしまう。だがそんな表情がそそると一部の生徒からは大変人気で、いつも怒られている俺に殺気を飛ばしてくる連中もいるほどだ。解せぬ…。
「さ、三回くらいですかね。」
俺は震えながらそう答えると
「これで、百回目だ馬鹿者。いい加減その遅刻癖を直したらどうだ。」
先生はさらに怒りを強めていく。
「あいつは先生を怒らせる天才か」
「っていうか、百回って…。八千代君確か早退もそのくらいしてたわよね。」
「憎い….我らの女神の表情を独り占めにしているあいつが憎いぞぉぉぉぉぉ。月のない夜には気を付けるんだな.....。」
クラスメイトからのひそひそ声が地味に聞こえるのがつらい。そして誰だ最後の!怒られただけで殺されかけるとかマジふざけんじゃねぇ!
「おい、聞いているのか八千代。遅刻だけでなく無視とはいい度胸だな。放課後、職員室に来い。みっちり指導してやるから覚悟しておけよ。」
「憎い…。我らの女神と放課後に二人っきり……。ころしてやるぞぉぉぉぉ」
また背後から聞こえる怨嗟の声。
「ちょっ、先生刺激するようなことあんま言わないで。モンスターが生まれちゃうから」
「何を訳の分からないことを言っている。とにかく放課後、すぐに来い、すぐにだ。」
そう言って先生は教室を出ていった。
席に着くとクラス委員長の大網恵子が話しかけてきた。
「駄目だよ八千代君。遅刻ばっかりしちゃ。遥先生のも迷惑でしょ。」
「真面目だな、委員長は。明日から善処するよ。」
俺はそう言って会話を切り上げ寝ようとしたときバカの声が聞こえてきた。
「でも百回目って。なんかお祝いでもする?記念として。」
「するかバカ。俺は眠いんだ。話しかけるなバカ。」
「バカってひどくない。もう少しお話ししようよ。ねぇってばぁ。」
そう言って俺の睡眠を妨害してくるのはバカこと銚子奏。こいつはサラサラとした髪としっとりとした肌、そしてあどけない顔つきとツルペタなボディをもった男である。そう、男なのである。初めてこいつの性別を知ったとき神は時として残酷なことをすると思ったのは俺だけではないはずだ。そしてこのこいつには変声期がないのかと思ってしまうようなソプラノな声と妙に軽いスキンシップのおかげで勘違いを起こす男子は多い。かくいう俺もその一人で、こいつが女だと思っていた時にあんなことをして……。やめようこの話は。あれは俺にとって黒歴史以外の何物でもない…..。
まあ兎にも角にも色々あってとても懐かれてしまったってわけだ。しかし奏に懐かれてわかったのだがこいつは青い狸よろしくどうやら頭のねじが一本足りないらしい。いつもは普通なんだが時々宇宙から受信した電波を発信している。おかげで俺まで変人扱いだ。俺みたいな常識人を捕まえて変人だなんて世の中は間違っているよ、まったく。
「いや、間違っているのは颯の頭だと思うけどね」
「ん?奏なんかいったか。」
「いや、なんも言ってないよ。」
「そうか、じゃあ俺は寝るからもう話しかけんなよな。」
いや、たしかに奏は何か言っていたはずだが本人が何でもないっていうなら何でもないんだろう。そう思い再び眠りの世界へと旅立った。
気づいたら放課後だ。朝になんか言われた用がしたが、まぁ覚えていないということは大した用事でもないのだろう。そう判断し俺はチャイムと共に教室を出た。
「八千代、八千代はどこだぁぁぁ」
野田先生の怒鳴り声が聞こえるが、空耳だろう。そう信じたい。そうじゃないと明日死ぬ…..。
いの一番に出てきたためか当然通学路には誰もいなかった。自転車をかっ飛ばし途中で今日の晩飯と明日の朝ごはんの弁当を買った。そうして築三十年のボロアパートに帰ると扉の前に小学生くらいの女の子がうずくまっているではないか。
「お、俺の部屋の前じゃないよな。面倒ごとにはかかわりたくないぞ。」
はんば祈りながら我が家の扉の前に行くと残念ながら女の子がうずくまっているのは我が家だった。いや。わかってましたよ。でも受け入れたくない現実ってあるじゃない…
扉を開けるには女の子に話しかけるしかない。意を決して女の子に話しかけた。
「あ、あのどうかしましたか。」
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