アプダスレア

第1話

 スレイピアからアプダスレアへと続く道の森の中で。


 暗闇の中に、焚き火の明かりが灯る。その明かりに向き合うようにして、小さな少年、アルザが座っていた。彼はただ、すがるような目でその火をぼんやりと眺めていた。


──アルザ。いいか、何があっても人に銃を向けてはならない。

──何があっても?

──ああ。何があっても、だ。


 パキッ、と薪の折れる音が聞こえる。


──それじゃあ、修理とかの時はどうするの?

──ううむ、そうだなぁ……、修理のやり方については後で纏めて教えるから、今は忘れてくれ。


 高地特有の冷たい夜風に、炎が揺れる。彼も、思わずコートの端を握りしめた。


──それよりも、だ。人に銃を向けるってことは、そいつを殺す用意が出来ている、ってことだ。

──殺す用意?

──ああ。殺す用意だ。引き金を引いたら、そいつは死ぬんだ。


 バキッ、とさっきより大きな音がして、薪が折れる。同時に、大量の火の粉が空高く飛び散った。


──いや、少し言い過ぎたかもしれない。そんなに怯えんでくれ。ただ、今言ったことは心のどっかにでもしまっといてくれ。


 彼は、焚き火の中に追加で薪を放り込んだ。


──それじゃあ、始めるか。今回使うのは、この………どうした、まだ聞きたいことがあるのか?


 彼は、小さく頷いた。


──死ぬって、どういうこと?


 思い出の中のその人物は、少し考えてから一際真面目な顔で答えた。


──死ぬって言うのはな、その人に二度と会えなくなるってことだ。


 頰を、一筋の涙が伝う。それをコートの袖で拭ってから、魔法書を取り出して水属性魔法で火を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る