よくわかる正しい嘘のつきかた!
ちびまるフォイ
フクナガ「ナオちゃんってホント、バカだよねー!!!!!」
「みなさん、社会で生きていくには何が大事だと思いますか」
卒業式のシーズンだからなのか
先生が良い言葉を言いたい気分なのかはわからないが
ある日のホームルームでクラスメートに問いかけた。
「学歴?」
「いや金でしょ」
「愛があればなんでもできる!」
各々、連日連夜行われるテレビなどの洗脳による
歯が浮くような答えを先生に投げ返した。
先生はやっぱりなとばかりに、お尻にきゅっと力を入れた。
「そんなもの、必要ではない!!
大事なのは頭の回転です!!」
「それって生まれつきのものじゃないの?」
「訓練しだいでどうにでもなります。
人間だってオオカミに育てられればオオカミ人間になれるでしょう。
逆に妖怪人間だっていつかは人間になれるのです」
「たとえがよくわからない……」
かくして、この学校では成績のほかに「Sポイント」が追加された。
シークレットのS、と思ったが単に先生がドSだから「Sポイント」らしい。
学校での評価はテストなどの成績+Sポイント にて換算される。
「でも、Sポイントってどうやって増やすんだろ?」
「女子トイレに入って、おじいちゃん!ここにいたんだ!
と叫びながら三点倒立すれば貯まるらしいよ」
「わかりやすい嘘で辱めようとすんな」
その瞬間、友人のSポイントが減った。
【 真実に気付かれました Sポイント-1 】
「ちくしょう! Sポイント貯めようと思ったのに!」
「え、今のしょーもない嘘でSポイント貯まるの?」
「お、教えねーよ! ばーか!!」
【 真実に気付かれました Sポイント-1 】
ふたたび友人のSポイントが減算される。
どうやらそうらしい。
Sポイントは真実に気付かれれば減り、相手を騙せばポイントが増える。
「先生が言っていた頭の回転ってそういうことか……」
人を騙したり、人を手のひらで転がそうとすると
相手の考えを読んだり先回りして考える必要がある。
それをSポイントで養っているのだろう。たしかに社会で必要そうだ。
「よし、勉強の成績はからっきしだけど、こっちでいっぱい稼ぐぞ!」
Sポイントを貯めるために嘘をつきにいくことに。
「俺、超能力つかえるんだ!」
「俺実は幽霊が見えるんだよ!」
「そういえば昨日、車に引かれちゃって~~」
【 真実に気付かれました Sポイント-3 】
「え゛っ……」
見事に返り討ち。
クラスメートからは白い目で見られていた。
「な、なんで信じてくれないの?」
「Sポイントがある以上、みんな積極的に嘘をつくでしょ?
その先入観があって目が肥えてるのに
そんな突拍子もないこと信じられないじゃん」
「あっ……」
「お前、うそ下手くそだな」
ずん、と頭の上に「下手くそ」という言葉がのしかかった。
ここで諦められるかと、今度はSNSへと手を伸ばした。
「ふふふ、SNSなら伝える情報も限られているし
Sポイントを知らない人も見るから、簡単に騙されるはずだ!」
さっそくSNSで行ったこともない料理の写真を投稿する。
案の定、真実だと思い込んだ人が反応してくれた。
【 相手を騙せました Sポイント+1 】
「やった! 上手くいったぞ!」
人を騙せたことで自分が優位に立てたような気持ちになる。
この調子でバンバン投稿していこう!
やがて、学内では中間成績発表が行われた。
俺の順位は――
「ひっく!!! ビリかよ!!」
まさかの最下位。
コツコツSNSで真実を織り交ぜた嘘投稿で稼いでいたのに。
それなのに、どうしてほかの人に負けてしまうんだ。
「だったら、もっと嘘を投稿するだけだ!! うおおお!!」
ネットで拾った写真を上手く加工して投稿。
アカウントも複数もって連続の嘘投稿。
だんだんと嘘にも慣れてきたころだった。
【 真実に気付かれました Sポイント-10 】
「な、なんだ!? めっちゃ減ってる!!」
稼いだポイントよりも減算したポイントが多いデフレ状態に突入。
コメントを確認すると、俺のウソが特定されていた。
>このサイトの写真と同じじゃん
>この時間に同じ店いたけどいなかったよ
>このメニューってこの時期出してないよね
いったん疑われてしまえば、ネットの凶悪な拡散性が牙をむく。
CIAに非常勤勤務していそうな特定班が俺のウソをどんどん暴いていく。
【 真実に気付かれました Sポイント-1 】
【 真実に気付かれました Sポイント-1 】
【 真実に気付かれました Sポイント-1 】
【 真実に気付かれました Sポイント-1 】
「ひぃぃ!! もう勘弁してくれぇ!」
アカウントを消そうが、ネットに刻まれた過去は取り消せない。
つるし上げられてエンドレスの死体蹴りをされる。
みんながネット経由でSポイントを貯めない理由がよくわかった。
嘘がばれたとき、不特定多数からSポイントを減らされるリスクがあったからだ。
「もうだめだ……完全に落ちぶれ人生まっしぐらだ……」
もうSポイントを稼ぐ方法も思いつかなければ、
お寿司の中に入っているギザギザの草みたいなやつの必要性も思いつかない。
ふと目に入ったのは中間成績発表の表。
その成績上位者に話を聞くことにした。
「この通り!! 女子トイレで三点倒立してるから!!
どうやってSポイントを稼いだのか教えてくれ!!」
「そうだねぇ、大事なのは嘘をついて真実を隠すんじゃなくて
最初から真実を話さなければいいんだよ」
「……どういうこと?」
「たとえば、私の血液型はAB型ですって言って確かめられる?」
「いや……わからない」
「全部イチから経歴もすべて嘘をつけば問題ない。
ウソをついていることがばれたとしても、真実に気付かれなければ
Sポイントが減ることはないからね」
「おまっ……天才か!!!」
ついに勝利へ導くメソッドを手に入れた。結果にコミットできる。
その日を境に俺は自分のプロフィールから歴史、記憶まで改ざんした。
名前も含めて完全に別人と化した。
完全な別人として生活するだけで、
ひとこと言葉を話せばSポイントは貯まる。
なにせ俺はすべて嘘でできている。完全な別人だ。
【 相手を騙せました Sポイント+10 】
【 相手を騙せました Sポイント+10 】
【 相手を騙せました Sポイント+10 】
【 相手を騙せました Sポイント+10 】
【 相手を騙せました Sポイント+10 】
必死に騙そうとやっきになっていた頃よりも、
結果的に騙されるような状況にさせている今の方が稼げている。
「あははは! これが人を騙すってことなのか!! 結果が楽しみだ!」
完全な別人として生活すること数か月。
最後の成績発表が行われた。
「それじゃ成績表を返すぞ」
先生から成績表を受け取り、期待に胸を躍らせて中を開いた。
「はぁ!? 0点!?」
あまりの予想に反した低さに先生へ詰め寄った。
「先生! いくらなんでも俺の成績が低すぎます!
あんなにSポイント稼いだのに0点っておかしいでしょ!!」
ネクタイをつかまれた先生は目を丸くしていた。
「だって、お前偽名使ってるから、
Sポイントはお前充てに入ってなかったんだよ」
騙された、と気付いたときには
成績上位者のやつは嬉しそうな顔で俺に手を振っていた。
よくわかる正しい嘘のつきかた! ちびまるフォイ @firestorage
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