目立たない人

 結婚してもう5年になる。夫と知り合ったのは幼稚園の頃。いわゆる幼馴染みというやつだ。一歩間違えれば腐れ縁になるし、一歩間違えれば疎遠になるような関係。そんななかで今みたいな手と手を取り合って、繋ぎあえる関係になれたことは本当によかったと思う。


 遡ること10年に少し満たないくらい。時は高校時代。彼の周りからの評価は異性同性限らず、目立たない人であった。平均的な体重、平均的な身長、平均的な顔つき。運動神経も可もなく不可もなくといったところで、当時のクラスメイトで彼のことをぱっと思い出せない人も多いんじゃなかろうか。どのクラスにも1人はいそうな感じを絶妙に醸し出していた。

 

 そんな彼でも、何だかんだでそばにいた私と、少しの友人にだけ分かる特徴があった。彼は相手の気が付かないような状況に限り、とにかく親切で気が回るのだ。本人が気がついていない落し物を拾って机の上に置いておいてあげる、当番の人が忘れて教室の花の水が汚れていたら変えておく、といったベタなことをはじめ、気が付かれないような親切を淡々とこなしていた。


 彼はたしかに目立たない。彼は学校では一番目立たない人で、会社でもきっと一番目立たない人で。そして、何より私にとって、昔も今も一番目立つ人なのだった。

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