肩たたき

 肩たたき。肩こりをほぐすためのマッサージである。ただし、こと子供が親に行う場合に限って言えば別の意味を持つ。ある時は手軽に行える親孝行となり、ある時は一種のコミュニケーションツールとなる。さらにある時は、お小遣いを得るための手段となるのだ。

 

 お小遣いが貰えるということは給料を得られるということであり、つまりは親を顧客とした労働、ビジネスであると言っても過言ではない。得られる額は一見、親の気の向くままであり、サービス提供者である子供には変更の余地がないようにみえる。


 しかし、その親の気を良くすること、それこそが肩たたきによって得られる効果であり、つまりは上手く肩たたきをすることで得られる給料を挙げられる、出来高制の労働であると考えることが出来る。ここで言う「上手く」肩たたきをする、というのは何も肩を叩く上手さの話だけではない。むしろ、子供らしさを演出するために少し弱く肩を叩くことが効果的な場合さえあるといえる。では、何をもって「上手く」肩たたきをしたと言えるのか。ここで重要になるのはあくまで親の心象である。すなわち、親に最も気に入られる肩たたきこそがうまい肩たたきなのだ。よって、この問題はこのように置き換えることが出来る。

 

 人の心を動かすために効果的な手段は何か。


 そう、幼子達は親の肩たたきという行為を通じて人心掌握について学んでいるのだ。人心掌握について聞けば、ある子はこう答えるだろう。人を動かすもの、それは言葉だ、と。また、別の子はこういうかもしれない。ひたむきな態度こそが心に響くのだ、と。肩たたきバイトというのはそれらの事を学ぶに値する授業であり、講義なのである。


「おとーさんのかた、たたいてあげるー」


「そうか、ありがとう。でも、急にどうして? 」


「おとうさんのこと、すきだからっ」


 今日もまたどこかで、聡明な子供による肩たたきが行われる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る