釣合う天秤

カゲトモ

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「そういえば、どうしてこっちで店出していの」

 ゆるくパーマのかかった髪を一つに結んだ真理亜が訊いた。

「どうしてって、修行させてもらっていた店もこの近くだったし」

「ふーん。それじゃぁその時からこっちには戻って来ていたんだ」

「まぁね」

 修行していた十年間は一度も教会に顔を出してはいないけど。

 真理亜とは幼い頃家が隣同士で、いわゆる幼馴染ってやつ。教会に併設された児童養護施設にいた真理亜とは、小学生の時に別れて以来、つい先日思いがけない再会を果たしていた。

「ま、男ってそんなもんよね」

「まぁまぁ」

 真理亜の隣でガタイの良い男性が優しげな表情でそう言って宥めた。

「男って言うのは総じて照れ屋ですもんね」

「ふふ、そうですね」

 体格はそこまでじゃないけれど、元ラガーマンの熊谷さんに近いものを感じる。大型犬ほど実は穏やか、みたいな。

「もう、そんなこと言わなくていいのよ。そうちゃんは薄情者なんだから。あんなにお世話になっていたのに、顔も見せないなんて」

 返す言葉もございません。

「そんなこと言っちゃダメだろ。真理亜だってずっと行っていなかったのに」

「私はいいの。だってこの辺に住んでいなかったもの」

「だからって長期休みにも帰ったりしていなかったじゃない」

「う」

 そこで真理亜はぷくっと頬を膨らませた。

「だって長期休みは長期休みで教会も忙しいもの。行ったって迷惑になるかもしれないじゃない」

「それでも少し顔を見せるだけなら問題なかったんじゃないの?」

「でも」

「でもじゃないでしょ?」

 メッ、と言わんばかりに男性が真理亜を見つめると、ツン、と彼女は視線を外した。

「ごめんなさい。えっと、そうた、さん」

 彼は申し訳なさそうに言う。大丈夫、そんなの今更だから。

「とんでもない。私も近くに住んでいたのに全然顔を出さなかったのは事実ですから」

 いろいろ生きることに忙しかったから、なんて言い訳。だいたい実家にすら盆暮れ正月くらいしか帰らない親不孝者だからな。

てかそれよりも、あの口達者な真理亜を黙らせることが出来るなんて、この人凄い。さすがは真理亜の旦那さんだ。

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