まさにてんてこ舞い 1
「四番テーブル、注文お願いね!」
「はい!」
先輩から頼まれ、ポケットから端末を取り出して四番テーブルへ小走りで向かう。
時刻は11時48分。ランチで混みだす時間帯だ。
「ご注文をお伺いします」
「あっ、えーっと、日替わりランチのパスタとハンバーグを一つずつ。あとドリンクバーをふたつ」
「……はい、ご注文は以上ですか?」
「はい」
「ドリンクバーはあちらにございます。ごゆっくりどうぞ」
一礼をしてお客さんの前から下がる。これで注文終了。厨房の人が作ってくれるのを待つだけ……ってわけではない。
入り口には席の案内を待つお客さんが……六人。なるべく待たせずに回すのがウェイターの仕事。らしい。
「お客様は何名様ですか?」
「二人です」
「禁煙席と喫煙席はどちらになさいますか?」
「禁煙で」
「かしこまりました。ガラスの壁より手前側のお好きな席へどうぞ」
スプーンやフォークはテーブルにセットしてある。
お好きな席へどうぞ、と言うだけの簡単なお仕事だ。
次のお客だ。あまり待たせないようにしないと。
「お客様は何名様ですか?」
「……四人」
「禁煙席、喫煙席のご希望は?」
「……禁煙」
「ガラスの壁より手前側のお好きな席へどうぞ」
よし、入り口は捌き切ったから次は……料理出来てるのがあるだろう。
厨房へ向かって出来上がった料理を確認する。八番と十番か。
トレイを持ってテーブルへ向かう。
これが意外と重い。最初の頃は何度も落としそうになった。でも慣れれば意外と楽なものだ。
「お待たせしました。パスタランチ二つです」
「はい」
二人の前にパスタとサラダを綺麗に並べていく。この作業も最初は難しくて苦戦した。片手で皿を置く、というのは意外と難しいのだ。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
浅く一礼して次のテーブルへ向かう。
「お待たせしました。ハンバーグランチとパスタランチです。まずハンバーグはどちらに?」
「僕です」
「はい……こちらがパスタランチです。ではごゆっくりどうぞ」
厨房のほうに戻りながら入り口と呼び出しのモニターを確認する。珍しく何もない。
料理の受け取り口の前で休んでいると先輩も同じように壁にもたれかかって休む体勢をとった。
「島村くんは覚えがいいのね。優秀だわ」
「ありがとうございます」
「夏休みだけなんてもったいないわ……ねえ、続けてここで働かない?」
「夏休みだけって決めてるんで、ごめんなさい」
「そう、残念」
本当に残念そうな顔で先輩は顔を下げた。
僕には優姫さんがいるので、夏休みみたいに時間があるときじゃないと優姫さんが絶対寂しがる。
……なんか優姫さんの扱いがペットみたいだ。
その時先輩がくすっと笑い声をあげた。僕はびっくりして先輩を見る。
「島村くん、彼女いるでしょ?」
「えっ? え、あ、いますけど……?」
「今彼女のこと思い出してたでしょ?」
なんだこの人は。エスパーなのか? メンタリストなのか?
「……はい」
「どんな子なんだろ?」
先輩は下を向き、顎に手を当てて考える体勢をとる。
僕に向けた質問ではないようだ。それなら答える義理はない。
すると軽い電子音が鳴りモニターに十七番テーブルの表示が出る。
「じゃあ、僕行きますね」
「あ、ありがと」
ランチの時間はまだまだ続く。気合を入れなければ。
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