第十二話 集まる面々
*
6月24日 02:03 〔牢屋〕
――ピィーーーーーーー
静寂を切り裂く鋭い警告音。
僕の持つ防犯ブザーが放つ大音量が夜の館に響く。
「おいおいおい、何事だよ!? って、なんだこれ!?」
「これは、談話室にあった斧か? チッ。ジンケン、引き抜くぞ」
「お、おう」
数分も待たず扉の外からは喧騒が聞こえてくる。防犯ブザーの音を聞きつけたのだろうカタメ、ジンケンが牢屋の前に到着したようだ。
現在牢屋の扉は何かが外側からかませてあるようで牢屋の内側にいる僕らでは開くことができずにいる。カタメ達の言葉を聞くにどうやら襲撃者は斧を扉にかませて逃走したようだ。
「外すぞ! せーの」
そうこうする間にもカタメ達の手によって斧が取り払われたのだろう。入口の扉が開け放たれる。
「おい、てめえら無事か?」
「ジンケンさん、カタメさん! 私とテイシは大丈夫! でも、マモルさんが」
慌てた様子で扉から飛び込んでくるカタメとジンケン。見ればカタメの服装は妙に崩れており、衣服を慌てて身に着けたような印象を受ける。
「どうしたんだ、マモル。その傷は」
「いえ。私も腕に傷は負いましたが既に血は止まっています。心配はいりません」
「チッ。警戒していたはずなのだがな。それでクビは?」
「さっき、その扉から逃げていきました」
僕が指さした先をカタメが目で追う。開け放たれた扉の先には大広間の扉が見える。カタメは一瞬、目を閉じ思考すると口を開く。
「当然、クビの姿は見たんだろうな?」
「はい。ただ、顔は仮面で隠されていましたし、赤いコートを羽織っていましたから体格もよくわかりませんでした」
「チッ。厄介な。行くぞ!」
「えっ? どこへ」
「大広間に決まっているだろう。残りの三人はそこにいる。もしそこにいなければ、そいつがクビだ!」
カタメは苛立たし気な声でそう告げると部屋を出る。僕はマモルから鍵の束を受け取ると牢屋の鍵を開ける。
「テイシ!」
「マコ、大丈夫だ。とにかく、行こう」
すでにジンケン、マモルはカタメに続き牢屋を後にしている。僕とマコは慌てて後を追った。
*
6月24日 02:05 〔大広間〕
「おい、デンシ! しっかりしろ!」
大広間の中から聞こえるカタメの鋭い声。
「えっ、まさか」
「デンシさんが!」
扉の前にたどり着いた僕はマコと顔を見合わせると慌てて大広間の中に飛び込む。
「デンシさん!」
目に飛び込んできたのはデンシの体を揺するカタメの姿。僕は息をするのも忘れデンシの下へと駆け寄った。
「デンシさんは! 一体何が!」
「テイシ、落ち着け。どうやら眠っているだけらしい」
「えっ、それじゃあ」
「ああ。これだけ揺すっても覚醒する様子が無い。首輪の破壊防止機能が使われた可能性が高いだろうな」
僕ら皆につけられている首輪。そこには衝撃を受けると装着しているものに睡眠薬を投与する機能が備え付けられている。
カタメの言葉に大広間の椅子に腰かけるデンシの姿を見れば、確かに呼吸に合わせ肩が上下している。どうやら命に別状はなさそうだ。僕はホッと息を吐く。
「それで、クビはどこ行ったんだよ!」
「これ、さっきクビが着ていたコートですよね?」
大広間の隅。しゃがみこんだマモルが持ち上げたのは霊安室に置かれている赤い防寒着だった。
「クビはここで衣装を脱ぎ捨てていったわけだな」
「じゃあよお、クビってもしかすると……」
ジンケンの言いかけた言葉に、僕らは顔を見合わせる。
大広間に脱ぎ捨てられていたコートに、眠らされていたデンシ。そしてこの場にいない人物となれば、残るのは。
――ガチャッ
「あらら? 探偵を差し置いて関係者の皆さんがお揃いで。何かあったのですか?」
「み、皆さん。凄く怖い顔ですけど。ぼ、僕、何かやらかしましたか」
タイミングを見計らったかのように男女それぞれの大部屋から出てくるシラベと、コロ。
「えーっと、なんですか皆さん。その目は? これではまるで私が探偵に追いつめられる犯人役みたいではないですか?」
「ぼ、僕は何もやっていませんよ……ほ、本当ですよ?」
二人から上がる抗議の声に、僕らは返す言葉を持たない。皆が思考する中で気まずい沈黙だけが大広間を支配していた。
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