デート・is・ネガティブ

ミレニあん

彼氏Side

「……まだかなぁ」


 ある街の噴水広場で、僕は待っていた。


 自慢ではないが、僕には彼女がいる。高校一年の頃に出会った同じクラスの女の子。黒髪のロングが特徴的で、まるで人形のような可愛い子だ。

 席が隣同士だったので、教科書を見せてもらう事や文房具を貸し借りもあった。そうして話も弾んで、今なお交際中という事である。


 付き合ってから一年経ったある日、僕は彼女を水族館に連れていく事にした。彼女が喜んでくれればいいが……不安もなくはない。


「ごめん、お待たせ」


 しばらくすると彼女がやって来た。


 着ている洋服が何とも美しい……思わず僕は見とれてしまう。


「遅くなっちゃったね……大丈夫だった?」

「ん? ああ、大丈夫だよ。それよりも、その衣装似合うね」

「そ、そうかな……」


 彼女が頬を赤らめている。その仕草が何とも愛おしくて、僕の口元が少し綻びる。




 でもしまった……もう少し発言を考えるべきだった。


「衣装が似合う」だなんて、女の子なら誰しも似合うよ! そんなありきたりな発言をして、彼女が内心ショックを受けているのではないだろうか……。

 そう、僕は心配性や不安を抱きやすい。相手がどう思っているというのはよく分からないし、無意識に傷付けているのではと思ってしまう。


 いかんいかん。これでは満足なデートが出来ない。もしもの事があったら謝ればいいし、早く水族館に行かないと。


「じゃあ行こうか。水族館はすぐそこだから」

「うん」


 僕は彼女と共に水族館へと向かう事にした。

 その途中に、彼女から手を握られる。彼女の温かさと柔らかさがすごくいい……と言いたい所だが、やっぱり不安が出てくる。


 彼女に汚いと思われたらどうしよう……それに僕の手が固いしゴワゴワしているから、不快感を与えてしまうかも……ああもう考えるだけでも不安が出てくる!


 とりあえず冷静に冷静に……駄目だ、不安でいっぱいでどうにかなってしまう。


「……どうしたの? 怖い顔をしているけど……」

「ん!? ああ、何でもない!! それよりも着いたよ!!」


 彼女にバレそうになってしまった……危ない危ない。

 ともかく目的地の水族館に来たみたいだ。早速僕達は中に入り、巨大水槽へと足を運んだ。


 数多くの魚が泳いでいて、何とも綺麗だ。よく見るとサメも一緒に泳いでいるようである。

 ……サメか。魚を食ってしまってデート代無しのグロ光景にならないか心配だ。


「君が好きなのってある?」

「……ん? ああ、マンタが好きかな。ほら、あそこに泳いでるじゃない」


 マンタか。確かに可愛い姿をしているから、彼女にピッタリだ。

 それよりも視線を感じたので辺りを見渡すと、一人の男性がチラ見していたのが分かった。その男性がすぐに目を逸らす。


 ……もしかして僕達の存在が疎ましく思っているのではないか。よく「リア充爆発しろ」とか言うし、言葉に出さなくても苛立っているかもしれない。

 ああくそ! こんな事なら水族館じゃなく他の場所に行くべきだった! でもそれじゃあ彼女に失礼だし……ああもう、この際最後まで行ってしまえ!


 ――そんな訳で、僕達はあらゆる魚を見ながら出口へと向かった。


 途中にも色々な不安があって、どっと疲れた気分だ。デートと言うのに何て様だ。


「……も、もう終わったようだね。どうだった、水族館?」


 しかしそんな事、彼女に口が裂けても言えないだろう。

 僕は彼女に感想を尋ねると、彼女もまた微笑む。


「うん、楽しかった。また行きたいね」

「……そうだね」


 ……感想が少し乏しい。彼女は楽しいと思っていないのかもしれない。

 やっぱり水族館じゃなくて遊園地とか動物園に行くべきだったか? でもそこでも感想がアレだったら、僕のやる事が水の泡になってしまう!


 ああ駄目だ。このネガティブな感情、何とかしてほしい……。

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