第21話 雪は降りますか?
「僕がレーナ様を止めるのに明確な理由はいる?」
シオンの歩みが止まる。
「わざわざ、止めに来ているのに理由は特にないというほうがおかしな話でしょ?」
傘からはみ出てしまうから私も止まり隣のシオンを見つめた。
「そっか……」
シオンの傘を持ってない手が私の頬に触れた。
なんだ、なんだ。
口を尖らせ不満顔で見つめ返される。シオンの顔がゆっくりとこちらに寄る。
キスの一つでもしようというのか彼は……。
ガンッ
「痛っ!! えっ……頭突き? はっ? どういうこと」
でこにはしる衝撃。ほんの一瞬キスされるかと思いました。はい、勘違いでした。
思わず両手ででこを押さえた。
前回も頬を引っ張られる定番だと思ったら豚鼻でした。そうでした……。
そして、細やかなことではあるが、頭突きをしたシオンは当然私を害する扱いになったようで眉をしかめていた。
「痛いでしょ。怪我したらもっと痛いよ……」
「そうね……無茶をしないように肝に命じておきます」
そういって私はでこをさすった。
寮まで送ってもらった。
最後に念押しといわんばかりにシオンは言う。
「怪我をしたら痛いよ」と。
私は相変わらず夜の抜け出し生活となっていた。
しかし、肝心なところまでは掴めない。また誰かが襲ってきたら……とは思っていたし、私だけでなく私の周りもピリピリしていたが襲撃もなかった。
平穏な昼間と平穏を維持するための平穏ではない夜が交互にやってくる。そして物事とはいつだって突然に始まるのだ。
ジークの誕生日である十二月二十五日がせまってきた。ラブラブとはほど遠いとしても、婚約者にプレゼントを渡さないわけにはいかない。ジークが選んでないにしても私の時も一応は貰っているし。
二十五日はゲームの世界ではクリスマスがない、代わりに短い年始末の休みにはいる前の日ということもありダンスパーティーが開かれる。
そしてパーティーの日の前には当然お約束のテストがある。
さすがの私もテスト前は夜の抜け出しを止めた。ジークのほうは時間があれば相変わらずのようだけれど。
護衛しているリオンとシオンにもテストが終わるまでは抜け出しませんと宣言した。まぁ、まだまだ通わないとだからテストが終わればまた通うのだけど。
テストが終わってすぐまたジークからダンスのエスコートの誘いのお手紙が届いた。あの日以来すっかり避けられているようだし、ジークも秘密の部屋に時間が許す限り籠っているのでほとんど会っていないから久々に会うこととなる。
婚約者なのにこれでいいのか? と流石に思う。
誰か代筆が書いたのだろうかまたも定型文ねこの手紙。
そして、またも荒れた肌をエステだ!
ドレスだ! ドレスが決まれば髪型だ!
化粧はどうする? アクセサリーはコースである。ダンスパーティーは二度目だし、このやり取りも経験済みなのでなんとなく段取りがわかる。
とりあえず秘密の部屋通いはダンスパーティーが終わってからだわ。
ほんの少しだけ春から比べて伸びた背。あまり成長を感じられない胸。ドレスのサイズも形も私の成長に合わせて少しずつ変わっていく。
今回はダンス踊れるようになったから私もイケメン先輩と踊れるかな? とかドレス何色にした? って話題でいつもの三人で盛り上がった。
学園都市ではあまり雪が降ることはないとはいえ12月末は流石に寒い。
だから、今回は髪もおろしてふんわりと巻く。巻くといってもレーナお馴染み縦ロールではなくゆるふわって感じだけど。
高そうな髪飾りをつけて。なんちゃらっていう相変わらず覚えられない人気のデザイナーがデザインした貧相な胸をカバーするドレスを身につけてヒールを履き、出かける直前に口に紅をさした。
ドレスの上にローブをはおり、小さなこの鞄に入るように考えて買った誕生日プレゼントを忍ばせる。
そして、前回とは違いジークが部屋に迎えにやってきた。
流石に私の部屋の真ん前がジークの部屋だからこれで迎えにこないのはどうかって話だけれど。
「ごきげんよう、レーナ。今日はいつもより綺麗だね」
相変わらずのいつもの愛想笑いを彼は浮かべる。『いつもより』は余計である。ここは『綺麗だね』だけでいい。
「お久しぶりです、ジーク様。お褒めいただき光栄です。手掛けたメイドも喜びましょう」
ジークのお世辞をさらりと流し、差し出されたジークの手に自分の手を重ねる。
ほんの少し会わなかった間に彼の背が伸びたような気がする。まぁ、最終的に180cm越えるのだから伸びて当然なのだろうけれど。
いつプレゼントを渡そう。今日はなんの話をしよう。あの女の事は聞いてもいいの? 誕生日だから今日はやめておくべき? 久しぶりだからちょっと気まずいとか考える。
ヒールの私に合わせていつもよりゆっくりとジークが歩く。
寮から出ると外の風は冷たい。ローブを着ているけれど、下のドレスはノンスリーブやっぱり寒い。晴れていてよかったよ、これで雪でも降った日には本当に死ねる。
真冬にガーデンで結婚式とか何考えてんだよ!? って一瞬以前の懐かしい記憶がよみがえってふふっと懐かしさに笑みがこぼれた。
二度目のパーティーが始まる。
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