第187話「それも仕事ですよ、筒井先生」
案の定、たった2人の部員を確保できなかったことを顧問の筒井にキレられたのだが、右京にしてみれば叱られるほど何もしなかった訳でもなかったので、言い訳だと言われるのを覚悟した上で反論する。
「やることはやりましたよ。クラス全員に声を掛けたのに、ダメだったんです」
しかし、想定していた「言い訳してんじゃねー!」とのお叱りは筒井から出されず、返って来たのは、疑った表情を伴った「一人もか?」だった。
「一人もです! 仮入部でも良いし、部にしてから辞めても良いとまで言ったんですが、それでもダメでした」
「全員ってのが、ちょっと引っ掛かるな」
「嘘じゃありません! 本当に全員……」
「お前のことは、疑ってねーよ。疑ってるとしたら、寧ろ……」と言い掛けたところで黙り込んだ。
「寧ろ? なんなんですか?」
すると、筒井は黙ってろとばかりに左手を差し出してそれを制すると、右手を顎に当て考え始めた。
3分ほど、何やらボソボソと呟いた後、窓の外を眺めながら「全く……念入りなこった」と、溜息混じりに愚痴を
「念入り?」
「あぁ、すまん、こっちの話だ」
どうして、そっちの話になるのか右京には理解できなかったが、そこは深く掘り下げず、兎に角、部にすることを優先しようと「明日から、他のクラスも廻って……」と告げたところで、突然、人が変わったかのような真逆の指示を受ける。
「いや、部員募集は一時保留にする」
「えッ! どうしてです? まだ、3人ですよ! このままじゃ……」
「安心しろ、部にはしてやる」
「えッ! いいんですか?」
すると筒井は、頭を掻きながら「筐体、頼んじまったからな」と言って、悪戯っぽく舌を出した。
幾ら低身長とはいえ、30は過ぎたであろう女性の『てへぺろ』を見ても、中学生男子には可愛くなど見えず、真顔で「あぁ、そうッスか」という返事をするものの、せっかちな顧問で助かったと思うのだった。
「とはいえ、大会に出場するには5人以上居ないといけねーから、いずれは最悪でも5人にしないとな」
サバイバルゲームの世界大会の参加規程には、13歳以上18歳以下であること、ドライバーは5名、オペレーターは15名までとなっている。
したがって、参加するには、最低でもドライバーとなる人間が5人必須なのである。
「で、なんだ? 用があんだろ?」
「あ、そうでした。部室の場所を……」
「あぁそうか、そうか、教えてなかったな。グランド抜けた先に、入学式で使った体育館あったろ?」
「はい」
「その裏に、野球部用とサッカー部用のグランドが左右に並んでる。その間の道を抜けた先に、デッケープレハブあっから、それがゲーム部だ。これ鍵だ。先に行って、開けとけ」
そう言って、筒井はジャージのポケットから取り出した鍵を右京に投げ、職員室へと入った。
筒井は、自分の席に着くなり周囲を気にすることなく「あぁ~、もう! 言っとけよ! メンドクセ~なぁ!」と叫んだ。
「それも仕事ですよ、筒井先生」
「解ってますよ、教頭」
「大変なのは、これからです」
筒井は、大きく溜息を吐いた後「そうッスねぇ~」と言って、天を仰いだ。
――時を遡る事、3ヶ月、神戸。
「久しぶりだね」
筒井は、自分の記憶を辿ったのだが、目の前の老人に心当たりが無い。
「え? 誰?」
「判らんかね? 髭、剃ってくれば良かったかな?」
「え?」
筒井は、目を細め、頭の中で老人の顔から、髭を取り除いてみた。
すると、一人の人物が浮かび上がって、驚く。
「あぁ~! 随分、変わったわね!」
「まぁ、少し痩せたかな?」
「少しって……整形レベルじゃない」
「相変わらず、君は口が悪いな」
「で、なに?」
「君に、お願いしたいことがある」
「お願い?」
「香川へ行ってもらいたい」
「かぁ~がぁ~わぁ?」
「そうだ。ギャラは
「香川でアタシに、ナニさせんのよ?」
老人は、その目的を告げると、筒井は笑う。
「ま~た、手の込んだことを……で、いつから?」
「今年の9月だ」
「くぅ~がぁ~つ!?」
「そうだ」
「随分、急な話ね。行くのは構わないけどさ、こっちの都合もあんだから、はいそうですかって行けるモンでもないわよ」
「話は、通してある」
この男がそう言うのだから、全てにおいて通したのだろう。
だが、一番に通すべき相手もそうなのか、確認のために敢えて問い掛けた。
「旦那にも?」
老人は、黙って頷く。
筒井は、大きな溜息を吐いた後、呆れた感じで言い返した。
「それってさー、お願いじゃなくて、辞令よね?」
「断ってもらっても、構わない」
「断り難いの解ってて、言ってるんでしょ?」
図星であっただけに、老人は苦笑いして、頭を掻いた。
「まぁいいわ、直接言ってくれただけ、マシってモンね。やってやろうじゃないの。ただし、保障はしないよ」
「ありがとう、
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