第166話「GTW終結宣言」

「第7次Grand《グランド》Touring《ツーリング》War《ウォー》が、ここに終結したことを宣言する」


 ラルフ・メイフィールドの挨拶で始まったGTW終結宣言とは、1年間に及ぶGTWの戦いが終わり、その順位結果や各種デザイン賞が発表される表彰式のことで、GTWのプレイヤーにとって、クリスマスに次ぐ、年末の大きなイベントになっていた。

 ラルフが大戦の終了を宣言しステージから去ると、入れ替わって現れたのは、この表彰式のメイン司会を務めるダニエル・フィッシャー、そして、東儀雅。


「今年も、この季節がやって参りました。第7次GrandTouringWar終結宣言。メイン司会は今年もやっぱり、この人たち、ミスターゲーム実況ダニエル・フィッシャー、そして、我らが女神、MIYABIさまです!」


 この表彰式は、インベイド社の配信サービスで全世界に生中継されるのだが、色々な視点で楽しんで欲しいと、実況放送者であったり、世界各国のテレビ会社にも、映像使用料金を取ることなく、それを許可している。


「今年も、長いようで早かった一年でした。みなさんは、思うように戦えましたか?」


「雅にとって、今年の一年は、どうだった?」


「あともうちょっとで、7位に成れたんですけどね。夫婦喧嘩に割り込んだのが、いけなかったのかな?」


 夫婦喧嘩とは、サーベルタイガーとシリアルキラーが闘う戦場のことで、その場に居る者は全て戦いに巻き込まれ、生き残ることが出来ない。

 プレイヤーたちからは「夫婦喧嘩は、リアルでやってくれ」と揶揄からかわれている。


「来年の目標は?」


「そうですねー、5位以内に入りたいですね。さて、挨拶はこれくらいにして、それでは参りましょうか。まずは、最優秀GTMデザイン賞から発表です!」


 GTMデザイン賞とは、その年に発表された機体に対して、プレイヤー1人に1票だけ与えられた投票システムで、その使用率や強さに拘ることなく、プレイヤーがカッコイイと思ったデザインに投票し、最も評価された機体に与えられる賞だ。

 投票は、GTWをプレイしているユーザーのみで、スマートフォンやPC、もしくは各地のインベイド社の施設で投票ができ、いつでも、どこでも、受付終了まで何回でも投票し直すことができた。


 初年度は、使用率でカウントされていたため、多くのデザイナーから「それはデザイン賞じゃない! 幾らカッコ悪くても、強い機体を選ぶじゃないか!」との声を受け、二年目から変更したのだが、結果は、ほぼ変わらなかった。

 それは自分が使ってる機体が、やはりプレイヤーにとって一番になってしまう心理的な傾向もあったのだが、それよりも、圧倒的な人気の機体があり、毎年、その機体がバージョンを変え、賞を取っていたのだ。


 今年も、森川さんだろうな。

 モリカワ以外ないだろうな。


 例年、色々な配信内で流れる受賞者予想のコメントは、たった一人の名前しか出ない。

 森川修二、現在もアニメ制作会社に勤めているアニメーターで、特に可変ロボットのデザインを得意とし、GTWの初動時にインベイド社からの依頼を受け、全てのGTXをデザインした人物なのである。


 イベントスタッフから封筒を受け取った雅は、それをハサミで切ると、中から取り出した紙に書かれた文字を読み上げる。


「第七回、最優秀GTMデザインは……森川修二さんのGTX1800TypeMIYABI2031です!」


 2025年、彗星のごとく現れたスター・東儀雅のために、毎年、モデリングやカラーリング、ステッカーなどを一新し、雅へ贈られている機体、GTX1800TypeMIYABIシリーズ、それの2031年バージョンなのである。

 デザインもさることながら、初心者にもオススメの機体であり、さらにはMIYABIの人気がそれを後押しする形となっての人気なのだが、ファンの間で噂される一番の受賞理由は……。


「この賞は、もう森川さんの賞と言っても、過言じゃないね!」


「そうですね。私も愛用させていただいてるので嬉しいんですけど、毎年、自分の名前を呼ぶのが恥ずかしいです」


 ステージに現れた森川にトロフィーと賞金ボードを渡すと、雅は受賞コメントを求めた。


「おめでとうございます」


「ありがとうございます。これで、今年もアニメが作れそうです」


 そう、一番の受賞理由は、森川アニメの新作を期待するファンの票ではないかと言われているのだ。


「引き続きまして、第七回、最優秀武器デザインは……」


 武器・防具・ステッカーなどのデザイン賞が次々と発表され、いよいよ、32人の王たちの発表が行われる。

 順位に関しては、最終日に確定しているので驚くことはないのだが、発表に際してドラフトも兼ねているため、誰が誰を選ぶかが、注目されていた。


「32位、ハオユーさんです」


 大きく手を振って、ステージに現れたのは、台湾の17歳の男子。


「おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「今年は、良い年になりましたね」


「そうですね。ずっと、U-18では決勝にも行けなかったので、これ一本にして良かったと思います。あと、もう一つ下だったら、ボーナスは貰えないところでしたね」


 ハオユーは、3年前から注目されていたプレイヤーだったのだが、U-18のサバイバルゲーム大会ではチームメイトに恵まれず、今年、本編(GTW)一本で勝負したことで、その実力を発揮し32位まで来ることができた。

 そして、彼の言うボーナスとは、王の順位(32位まで)に与えられる役員報酬のことで、一律1億円が別途、贈られることになっている。


「では、ハオユーさん。どなたをクイーン(第一希望)に選びますか?」


 ドラフトは、32位から順に選んでいくため、日本のプロ野球のように選択希望プレイヤーが被ることはなく、また、プロであれば64位以下を選んでも構わない。


「同じ台湾の77位、パイロン選手で!」


 当初は、クイーンと呼ばれる33位から64位までから選んでいたのだが、ここ最近では、組んで戦う方が効率が良いと、時間帯が同じプレイヤーを選ぶことの方が多くなっていた。


 次々に、トップランカーたちが呼ばれ、クイーンを選んでいく。

 そして、8位の雅が選んだのは、


「27083位、Miu」


 その選出に、会場はどよめいた。

 それもその筈で、Miuこと、安西美羽あんざいみうは、その戦略や戦術は評価されていたものの、毎年、順位は2万台になっていたからだ。

 雅が卒業し、刀真も居なくなった2027年「桃李は終わった」と言われていたU-18サバイバルゲーム世界大会において、ゲームクラブ部長として、見事に三連覇へと導いたのである。

 そのことから、2028年に一度注目を浴びたのだが、その年は結果が振るわず28455位、また、翌年も、25307位と結果が出来なかったため、いつからか、忘れられたプレイヤーになっていた。


 では、なぜ、雅は今年になって美羽を指名したのか?

 それは、大学の卒業試験が終わり、卒業が確定したからである。

 もともと、学業の成績が良くなかった美羽は、今までゲームに集中することが出来なかったのだ。

 飛鳥も悪い方なのだが、専属の家庭教師(刀真)が居たため、難無く卒業を決めていた。 


「いいなぁ、飛鳥ちゃんは、先生が居て……」


「アンタが、お嫁さんだったら良かったのにね」


「もう、紬ちゃん、いつのネタよ! それより、本当に辞めちゃうの?」


「プロとしてはね、ゲームは今まで通り楽しむよ」


 南城紬なんじょうつむぎは、プロの順位ではあったものの、自分の才能の限界を感じていて、普通に就職して、余った時間でゲームを楽しむことを決めていた。


「泣かないでよ、ゲームは続けるし、永遠の別れって訳でもないんだからさ。アンタは上に行きなよ」


「うん」


 後に安西美羽は、GTMの配色から『蒼き知将』と呼ばれることとなる。



「1位、サーベルタイガー!」


 娘を抱えステージに上る刀真は、途中、3位に座る飛鳥に娘を渡そうとするのだが、娘はそれを拒否する。


「おめでとうございます」


 すると、刀真より先に真凰まおが応えた。


「ありがとー!」


 代わりに、トロフィーを受け取ろうとする真凰まお


「アタチが、もつ」


「大丈夫? 重いよ」


「だいじょうぶ。もてる」


 と、言ったもののやはり重いようで「ママー!」と叫んで飛鳥を呼ぶと、貰ったトロフィーを飛鳥へ渡した。


 雅は「やっぱり、重かったでしょ?」と、可愛い姪の頭を撫でた後、刀真にマイクを向け、


「それでは、来年の目標を?」と質問すると、真凰まおは、そのマイクを奪い取り、


「アタチが、パパをたおちて、ちぇかい、いちいになりまちゅ!」

 

 すると会場は、笑いと「がんばれよー! パパなんか倒しちゃえ!」という応援で包まれ、GTW終結宣言は終了する。

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