第126話「最終テスト」

 飛鳥は、両手に持った二本のソードを振り上げると、それを刀真へ目掛け投げた。

 だが、それは攻撃というよりも――。


「あくまで、対等に勝負がしたいか……」


 そう呟いて、刀真は飛んで来た二本のソードを受け取った。

 一方、ソードを投げた飛鳥はというと、刀真が置いた二本のソードを拾い上げ、準備体操でもするかのように、クルクルとソードを回し始める。


「いいだろう、東儀とうぎ飛鳥、受けてやるよ」


 この時より、刀真は飛鳥のことを東儀妹とうぎいもうとと呼ばなくなる。

 

「さて、最後のテストだ。お前に、解けるかな?」


 そう言って放たれたホーミングミサイルは、飛鳥の方へ向かうことなく、全弾、クレーターの壁面で砕け散った。

 その行動を不思議に思ったゲーム実況者ダニエル・フィッシャーが、解説者たちに意見を求める。


「おっと、どうしたことだ、サーベルタイガー。所持していたミサイルを全弾、クレーターの内壁に! 何か作戦があるのでしょうか?」


「作戦じゃないな」と、ローレンスがいち早く、解説を始める。


「なぜ、そう思うんです?」


「あそこまで追い詰められたんだ。最早、ミサイルを使って、何かを教えてやる必要が無くなったんじゃないかな?」


「実は、ずっと気になっていたんだが……今みたいに、教えるであったり、月に慣れるまで待ったりと、そんな言葉を使ってるよね……もしかして、サーベルタイガーとシリアルキラーは、師弟関係?」


 その質問に、ラルフ、ローレンス、ルイスの三名は笑い出し「当たらずとも、遠からずってとこだな」とラルフが答えた。


「確かにシリアルキラーは、サーベルタイガーに似た強さを感じるが、あれは教わった訳ではなく、天然モノなんだ」


「天然モノ? でも、遠からずということは……」


「今の関係は微妙だが、師弟関係とも言える。シリアルキラーが、教わるのを拒んでるからな」


「え? 教わってないのに、師弟関係なんですか?」


「う~ん? まぁ、どうせいつかはバレるし、いいかな? シリアルキラーは、女子高生で……」


「女子高生!?」


 ラルフが発した『女子高生』というパワーワードは、ダニエルや視聴者だけでなく、ネット中を驚かせ、騒がせた。


「あぁ、驚くのも無理はないよな。で、サーベルタイガーは、シリアルキラーが入学した高校の部活顧問なんだよ」


「そ、そんな身近なところで!?」


「あぁ、俺も最初は驚いた。しかも、あいつらの出会いは、偶然だったんだからな」


「ということは、サーベルタイガーがシリアルキラーをスカウトしたという訳でもなく?」


「そうだ、偶然、二人は同じ学校の教師と生徒になったんだ。もし、あいつが10歳以下だったら、サーベルタイガーの子じゃないかと疑ってたね」


と、ラルフが軽いジョークを飛ばした時、ローレンスがダニエルに画面を見るよう促す。


「雑談は、そこまでだ。動き出したぞ!」


「おっと、今度はサーベルタイガーから仕掛けに行ったーッ!」


 ソードを顔の前に出すようにクロスさせた刀真が、低空飛行で一気に詰め寄って来る。


「ん? このまま突っ込んで来る!?」


 その攻撃に、飛鳥は咄嗟とっさに仰向けに倒れ、上を通過する刀真目掛け、ソードを突き刺しに行ったのだが、速過ぎて当たらない。

 そして、方向転換した刀真が、再び襲い掛かる。


「まるで、闘牛だな。避けて、斬れないのか?」


 ローレンスが簡単に口にした攻略を、ルイスが否定する。


「ローレンス、そいつは無理だ。サーベルタイガーなら、上や左右に間違いなく合わせてくる」


「寝たら、合わされないのか?」


「下なら、よくて相打ちだ。地面に激突して、ゲームオーバーになるのはサーベルタイガーの方だからな。だが……」


「だが?」


「俺の知っているあいつらは、同じことはしない筈だ」


 攻撃する方にしろ、守る方にしろ、同じ戦法は使わない筈だ。


「もし、同じなら?」


「そいつは、罠だろうな」


 迫ってきた刀真に、飛鳥は倒れて避けると見せ掛け、刀真に合わせるようにブーストを噴かせ、併走するように飛ぶ。


「もらったぁぁぁーーーッ!」


 飛鳥は、ガラ空きになったコックピット目掛け、ソードを振るのだが、刀真の両手にはソードが無い。


「サーベルタイガー、シリアルキラーの右腕を掴んだーッ!」


 飛鳥の右腕を掴んだ刀真は、それを軸にして、一気にブーストを噴かせ、回転し始める。

 それに対して飛鳥は、回転運動に体ごと持っていかれる前に、自分の右腕を躊躇うことなく切断した。


「一人で、回ってろーッ!」


 まるで、羽を一枚失ったヘリコプターのように、不規則な回転をしながら、飛んで行く刀真を飛鳥が追う。

 そして、まだ体勢が整っていない刀真へ、左手に残ったソードを振る。


「終わりだぁぁぁーーーッ!!」


「体感で速度を覚えるお前は、ミサイル6発分の差分に、瞬時には対応できない!」


 なんと刀真は、崩れた体勢からブーストを噴かせ、飛鳥へ突進するのだが、振られたソードが刀真の右肩にヒットし、右腕が吹き飛んだ。

 視聴者の誰もが、シリアルキラーの勝利を確信したのだが――。


「お前に出来て、俺に出来ないと思ったか?」


 刀真の左腕は、激突した衝撃で無くなっていたが、同時に飛鳥のコックピットを貫いていた。


「優勝は、サーベルタイガーーーッ!!」


 ダニエルのコールと共に、GTWの世界では、幾つもの花火が打ち上がり、大会の終了を告げていた。



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あとがき

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この物語の投稿、凄く悩みました。

それは、飛鳥が勝つパターンも考えていたからなんです。

どっちに勝たせるべきか随分悩みましてね、それで更新が一ヶ月ほど遅れたという訳です。

最終的に、今後の展開を踏まえると、刀真に勝たせるべきだと判断し、現在の投稿されている物語になりました。

もう少し、手数も増やしていたんですが、5話も跨ぎましたからね。これ以上は蛇足な気がして、幾つか減らしました。減らした手数は、きっとどこかで使われることでしょうw

ということで、読んでいただいた方に合う作品であったなら、幸いです。

2019/10/24 18:35

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