第103話「Exhibition-1」

 GTWの戦場は、地球圏を再現したこともあって、かなりの広さがある。

 プロのみ2時間以内に戦死したエリア、もしくは運営からの殲滅宣言が出されたエリア以外なら、地球上の何処へでも行ける。


 だが、今、闘っている二人に、その広さは必要なかったようで、三宮の駅前に在る8車線からなるフラワーロードが、二人にとっての戦場リングとなっていた。


 二刀で激しく打ち込んでくる飛鳥に、ルイスは防戦一方だった。

 ダニエル・フィッシャーも興奮気味に、それを視聴者に伝える。


「上手い! 一本で斬り、もう一本で突く、これではしものルイスも、カウンターが取り辛いーッ! しかし、ルイスも一歩も退こうとしない! 恐らく、何かを狙っている!」


「それもあるだろうが、たぶん、意地だな」


「意地?」


「自分が、GTWのナンバーワンだと言う意地さ」


 ローレンスの解説に、頭を縦に振り納得するダニエル。


「なるほど、確かにその通り。出来れば、ルイスには攻撃する意地も、見せてもらいたい」


 刀真は、それを聞いて鼻で笑う。


「解っちゃいねーな、ローレンス」


「どういうことです?」


「今、お前の妹が押しているように見えてるのは、ルイスがわざと誘って、うまく流しているだけだ」


すきが出来るのを待っていると?」


「もっと深刻だ。一撃で仕留しとめられるタイミングを見計みはからっている」


「一撃で?」


「正確に言えば、勝敗の分かれ目となる一撃という意味だろうが、八極拳には『二の打ちらず、一つあれば事足りる』という言葉があるらしい。ルイスが動けば、終わる……かもしれん」


「一撃必殺かぁ……」


「ところで、お前の妹は、ルイスの使う拳法について調べていたか?」


「いいえ、そんな素振りは……」


「となると、前回の闘いを脳内でシミュレートしたくらいか……」


「このままだと、ワカランゴロシされますかね?」


「誘いに乗ってる割りには、今のところ巧くやれてはいるが、いずれ、ルイスが仕掛けてくるだろう。ルイスが動いてからが、お前の妹の進化が問われる時だ」


 そうこう言っている内に、ルイスが飛鳥の突きを右腕で跳ね上げた。

 それを観て「仕掛けてきた!」と、思わず雅が叫んだが、刀真がそれを否定する。


「いや、まだだ」


 飛鳥は、懐に入らせまいと、右のソードでルイスの胴をぎに行ったのだが、ルイスは踏み込まず、ピョンと跳ねるように後ろへ飛び、それを避ける。


「どう対応するかと、間合いを計ったな? ということは、次か?」


 再び、ルイスが飛鳥の突きを右腕で跳ね上げ、先程と同じく、飛鳥も胴をぎに行ったのだが、今度はソードの振り始めに後ろへ飛び、ソードが目の前を通過するタイミングで、着地と同時に大地を蹴って、飛鳥へと突進する。


 さぁ、どうする? 俺と同じか?

 それとも、違う世界を見せてくれるか?

 何もなければ、終わるぞ!


 飛鳥は、薙ぎに行った右ソードの勢いを殺さず、そのまま回転しながらしゃがみ、今度はバックハンドになった左ソードで、踏み込んで来たルイスの左足を狙う。


 ルイスの左掌底しょうていは、飛鳥の左肩にヒットしたものの、飛鳥に踏み込んだ足をとらえられた結果、威力は不十分で肩を押すような形となり、また、飛鳥の攻撃も、ルイスを捉えはしたものの、GTX555の両手両足が剣と同等であるため、傷つけることさえ出来ず、足をすくって、ルイスを転がす程度に終わった。


 互角の勝負に、それを観ていた各地の観客たちは興奮し、大きな歓声を上げた。


「惜しい、今のが足じゃなく、胴だったら……」


「いや、胴だったら終わっていたのは、妹の方だ」


「え? どうして?」


「あの技は、いや、あの技だけでなく、八極拳で重要なのは踏み込みの強さだ。もし、踏み込んだ足が地に着いていたなら、間違いなく左肩を打ち抜かれ、体制を崩したところへ、更に踏み込まれて、右の掌底しょうていをコックピットに合わされていただろう」


「じゃ、運が良かったんですね」


「いいや、そうじゃない」


「え?」


「お前の妹は、狙っていたんだ。おそらく、以前の闘いで、なぜ威力があそこまで出たのかを考え、答えを導き出していたに違いない」


「飛鳥が、そんなことを?」


「普通に走って体当たりした程度では、あそこまで吹き飛ばない。更に言えば、GTX555に特別な馬力が備わってる訳でもない。あれは、技の生み出す力なんだ。地面を強く踏み込む力、体幹、重心移動、全てが噛み合って、初めてあの威力が出せる」


「では、もうこれで八極拳は使えない?」


「いや、それはない。他の拳法と合わせられれば、何も封じてないのと一緒だ。そして、次も同じなら、間違いなくやられる!」


 両者、再び、詰め寄り、飛鳥の方から仕掛ける。

 左のソードで、内から外へ横に振った後、今度は右のソードで突くのではなく、袈裟けさ斬りに行く。


「その程度の変化で、対応できないと思ったか! 見くびるなーッ!」


 ソードを半身でかわしながら右手で押さえ込み、左の掌底しょうていを脇腹に叩き込む!


 だが、半身でかわす筈のソードが、目の前で落ちる。


「し、しまったーッ!」


 その振られたソードは、ルイスへ向けるためではなく、地面に突き立てるためのモノだった。

 突き立てたソードを利用して、ルイスの顔面に飛び蹴りを放つ。

 ルイスが踏み込んだ勢いも加わったため、GTX555の頭部が吹き飛び、蹴ったGTX1000の左足も膝から砕けたが、カメラを失ったルイスに成すすべはなく、左のソードで胸を突かれて、第一試合は終了する。


「なんと、下馬評を覆し、勝ったのはシリアルキラァァァーーーッ!!」


 再び、各地で新年を迎えたような、歓声が巻き起こった。



 普段では考えられないほど、飛び上がって喜ぶマリアに、ラルフは驚く。


「おい、どうした? 君らしくない」


「あの娘に、賭けてのよ」


「え? その喜び方だと……ウチじゃないな?」


「えぇ、モチロン! セルディアナ会よ!」


「な! あんなところで賭けたのか!」


 それは、ブックメーカーでも扱えないような超高額取り引きを望む人々で形成された会で、最低でも10万ドルからという、トンでもないギャンブル狂いの集団だった。


「で、幾ら賭けて、幾らにになったんだ?」


 ラルフは、恐る恐る聞いてみる。


「1億が4億になったわ!」


「そうか、しかし、よくもまぁ1億円も……」


「なに言ってんの、ドルよ」


「はぁ?」


「お、お前、ひゃ、120億円も張ったのか!」


「自分のお金じゃないわよ。アタシが会社で自由にしていいって言われてたヤツよ」


「あぁ、そうか、それなら……ってなるかよ! おい!」


「全部、会社に戻すわよ」


「そういうことじゃない! 全く、君ってヤツは……」


「ヤツは、何よ?」


「美し過ぎる癖に、幸運の女神ときている」


「ありがと」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る