第89話「オタクなめんな!」
「特訓って、対スカルドラゴンのですか?」
いよいよ、アイツを倒すための特訓が始まるのかと、熱くなった紗奈であったが、刀真がその熱を
「いいや、違う……いや、違うことも、無・い・か?」
「え? どっちなんです?」
「
「え? 飛鳥の? ていうか、違うことも無いっていうのは、どいうことなんです?」
「それは、今からやる特訓の内容が、お前のベースを底上げするモノだからだ」
「あぁ、だから、スカルドラゴンも含まれるってことですねって、なんで対飛鳥なんです?」
「この合宿中に、お前を妹と対戦させるからだよ」
対戦する驚きよりも、自分がシリアルキラーと呼ばれた天才の相手になることの方が驚いた。
「え? 特訓したら、飛鳥と互角に闘えるんですか?」
「あぁ。ただし、妹には同じイチハチに乗ってもらうがな」
「イチハチ? GTX1800のことですか?」
「そうだ。開発者たちは、皆、略称で呼んでいてな」
「え? 開発者たちが!」と眼を輝かせる紗奈。
「北川は、開発に興味があるようだな」
「はい、いつか制作に携わりたいと思っています」
「なら、なぜそう呼ぶようになったのか話しておくか。そもそも、形式番号の上二桁が機体番号で、下二桁は機体を0から99箇所、つまり、100の部位に分けたカラー登録をしていたんだ。その頃のままだったなら、俺が乗ってる機体の型番はGTX1032、つまり、32箇所のカラー登録を行ったことになる」
「という事は……タイガーファング(GTX777)は、77箇所の色を変更したんですか?」
「いやいや、それどころじゃなくてな。叔父さんやルイスは、それでは足らないと開発部へ訴えたのさ」
現在もGTWのデータ管理を勤めている
しかし、数日も経たない内に、特別会員であるルイス・グラナドから社長を通して話が遣って来た。
「もっと配色したいらしんだが、なんとかならないか?」
「次のバージョンまで、待てませんか? 今から再編となると、データベースだけでなく、メモリの方も触らないといけませんから、私だけでなく、少なく見積もっても全体で2週間の遅れが出るかと……」
大きく溜息を吐いて、ラルフは諦めたのだが、今度は副社長の
「小早川! テメェーふざけんな! キャラ作成は、大切なコンテンツなんだ! 99なんかで足りるかよ! 仕切り直せ! 延期してでも直せ! オタクなめんな!」
こうして、この鶴の一声で、データ管理の見直しを余儀なくされた。
しかし、その結果、公開までに色付けできる部位も増え、更にステッカーなどの飾り登録できるようになり、プレイヤーのニーズに応えられる良コンテンツとして成長する。
「そして、その空いた枠に、目を付けたのがアレンだった」
「アレンさんが?」
「実は、今、ナンバリングをENで買えるようにしてるんだ」
「え?」
「機体開発に通った者しか知らない情報なんだが『あなただけの、永久欠番を買いませんか?』な~んて、買うように煽ってるんだよ。叔父さんの777や、ルイスの555は買った番号だ」
「GTX1000は?」
「たまたま、キリの良い番号だった……と言いたいところだが、俺を広告塔にするために、ラルフが
ちなみに、ヨハンのオペレーター、フレデリカの扱うGTF1524も、ヨハンの誕生日である1月5日と、自分の誕生日である2月4日を足した型番となっている。
「へぇ~、そんなことがあったんですね」
「脱線したな」と笑い、刀真はようやく雅の質問に答える。
「同じイチハチなら、東儀、お前の距離を保ちさえすれば、決して勝てない相手ではない」
「本当ですか?」
「あぁ、お前は自分が思うほど、弱い存在では無い。だが、特訓の成果が出ればの話でもある」
「はい」
「動作を全てお前がするなら、北川が出来るのは所詮、警告のみだ。そして、その警告を受けてからでは遅すぎる。お前自身が、お前の間合いを体で覚えるしかない」
「124m……そんなに細かい距離、アタシに出来るでしょうか?」
「5m未満までなら、誤差の範囲だ。難しいように感じるかもしれんが、感覚的には、車の操作と変わらない。下手なヤツも多いが、殆どの人間が駐車スペースに停められているだろ? その程度の慣れだ」
これは、雅に自信を付けさせるための刀真の嘘で、同じ車で例えるなら『F1でレーサーが取る車間距離』の方が正しい。
「でも、北川さんの警告が出てからだと遅いのなら、どうやって124mを正確に計るんです? ドライバーに、そんなモードってありましたっけ?」
「そんなモードはないよ。だから、まずはオペレーターを俺がやり、俺が機体を動かす、お前は攻撃せずに、距離を見て覚えろ。では、始めようか」
「せ、先生! 私は?」
「北川は……すまんがチョットの間、見学していてくれ」
雅は筐体に手を掛け、乗り込んだのだが、すぐに首だけ出し「あのー」と声を掛ける。
「どうした?」
「酔わない程度で、お願いできます?」
「それも慣れろ」
「えぇぇぇーーー」
嫌がる雅に、サッサと中に入れとばかりに刀真が手を前後に振ると、渋々顔を引っ込め搭乗するのだった。
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