第83話「Ruler Of The Battlefield」

 どう? 勝てそう?


 普段なら簡単に聞ける言葉が、こんなに重苦しいと感じたことは、今まで無かった。

 それだけ、妹の眼差しが真剣だったからだ。

 正直、ランキング100位を切る自分の眼でさえも、気分を悪くするばかりで、その凄さが解らない。

 もちろん、全てをけ、全てを撃墜しているのだから、その強さを認識することは出来る。

 雅が理解できない凄さとは、その強さのメカニズムのことだ。


 運良く、敵の攻撃が当たらなかった。

 運良く、自分の攻撃が当たっている。

 そんな訳じゃないことくらい解る。

 でも、それは直感的なもので、その強さを説明をすることが出来ない。

 反射神経だけでは言い尽くせない、何かがサーベルタイガーには有る。


 そこまでは感じ取ることが出来たものの、説明できないもどかしさに、東儀雅とうぎみやびは苦しめられていた。

 ただ、妹の真剣さから察するに、前回のイベントで『サーベルタイガーは、手を抜いていた』という事実だけは、間違いなかったと確信する。

 つまり、この非公開時代の方が、飛鳥には強く見えるという事だ。

 それもその筈で、この時の刀真は、GTX1000の限界を見極めるべく、全開で飛ばしていたのである。


 せめて、上に在るジオラマでエリアの全体が観れれば、まだ何かを掴めそうな気もするんだけど……。


「す、すみません、スロー再生って出来ないですか? き、気持ち悪くって……」


 そう言ったのは、顔を青白くさせた安西美羽あんざいみうだった。


「あぁ、ごめんなさい、そうよね、速過ぎて気持ち悪いわよね。じゃ、次のデータは、スローで再生するわね」


 だが、2分もしないところで南城紬なんじょうつむぎが、7分を過ぎた辺りで北川紗奈きたがわさながギブアップを宣言する。


「もう、無理……」


 再生が終了したものの、雅には未だ全体像が掴めないでいた。


「安西さん、今の、戦場の全体像って浮かぶ?」


「なんとなくですが……最初に、後方からレーザーが来たのを」と、美羽が戦場を口で再現しようとした時、ラルフが驚いて、それを止める。


「ちょっと待て! 君は、今の戦場を再現できるのか?」


「全部じゃありませんよ。画面に映っていた範囲なら、なんとなくですが、出来そうな気が……」


「それなら、最上階のジオラマを使おう。あれなら、君の頭のデータを入力することで、3D映像として再現が出来る」


「アレって、そんなことも出来るんですか?」


 と驚く紗奈に、ラルフは少し嫌な表情を見せ「あぁ、ただ、面倒ではあるがな」と答えた。



 最上階、使徒専用会議室。


「さて、エリアは何処だったかな?」


 ラルフが会議室の200インチのモニタに、サーベルタイガーの戦闘履歴を映し出し、スロー再生をはじめ、どのエリアなのかを探していると、刀真がモニタに映る建物を指差し、そのエリアを答えた。


「スペインだな。あそこに、グラナダ大聖堂が映っている」


 記憶してる癖に、有名な建築物が出るまで、解答を控えるとは、随分と用心深いですね刀真先生。


 心の中で、揶揄からかいながら、タブレットを操作し、ジオラマにスペインはグラナダを映し出した。


 ジオラマに身を乗り出して「確か、そこのビルの横から……」と、サーベルタイガーのスタート位置を指し示す美羽に、ラルフは差し棒を渡す。

 美羽は、渡された指し棒を伸ばし、改めて、サーベルタイガーのスタート位置を指した。


「美羽、位置を指したら、手元にあるスイッチを押してくれ」


 美羽がスイッチを押すと、座標データがラルフの使うタブレットに転送され、ラルフはGTX1000を配置する。


「この位置の時に、敵がココと……」


 続いて、この時点での敵の配置を美羽が答えようとするも、ラルフが止める。


「美羽、待ってくれ。まずは、サーベルタイガーの行動から追っていこう」


 美羽の指示で、秒単位でサーベルタイガーの座標や角度を配置し、2度目の出撃データ15分間を44分掛けて設置した。

 次に、敵の配置を重ねるように置いて行き、映像で再確認しながら、途中、飛鳥も手伝って、ようやくサーベルタイガーの戦闘データが完成したのは、それより、さらに2時間52分後のことだった。


「15分の映像の為に、3時間半! まるでアニメの特典映像なんかでよくある『3分の映像の為に、1万枚描きました』ってのに似てますね」


「そうなんだよ、つむぎ。だから、昔のデータを3Dに変換しなかったんだ。まぁ、サーベルタイガー本人がデータを扱えば、もう少し、マシだったんだろうけどな」


 そんな嫌味を言うラルフに対して『データの打ち込み作業みたいなモンだから、あんま変わらねーよ』と、刀真は心の中で突っ込んだ。


「さて、再生を始めるぞ」


 データ全体の完成度としては、76%といったところだが、俺の戦闘データとしては96%、ほぼ再現できている。

 安西は、視野もさることながら、空間認識能力がズバ抜けてるな。

 それだけなら、東儀妹より上かもしれん。


 15分の戦闘データを観終わって、今度は雅が真剣な面持ちになり、時間が止まったかのように動かなくなる。

 隣の席に居た紗奈が、それに気づき、雅の肩に手をやって話し掛けた。


「どうしたの? 雅、何か解ったの?」


「あぁ、ごめんなさい、ちょっと考え事を……」


 サーベルタイガーの、強さの秘密は理解できた。

 解るには解ったけど、これを飛鳥に言うべきかどうか……。

 それにしても、どうして、このスピードで、こんな真似が出来るの? 

 だからといって、偶然では有り得ない。

 間違いない!


 サーベルタイガーは、戦場を支配している。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る