第67話「ゴールデンウィークのご予定は?」

 ――よく学び、よく遊びなさい。


 これは、桃李成蹊とうりせいけい女学院創設者、田辺友康たなべともやすの言葉で、しっかり学ばせ、しっかり休ませなさい、そうすれば、子供は良き方向に育つという考えを一言で述べたもので、歴代校長たちは、このこころざしをしっかりと受け継いでいる。


 そんな桃李成蹊女学院の今年のゴールデンウィークは、4月26日から5月6日まで、なんと大型11連休となっている。

 これは毎年の事で、どの時代の校長たちも、ゴールデンウィークが長過ぎるという、クレームに対して『授業時間が数日減ったからといって、支障を来たすような教育はしておりません』という強気な発言を繰り返していた。



「ゴールデンウィークって、どうするんだ?」


 通常の部活なら、部員から顧問に聞く質問を、顧問が部員にしている。


「全日、部活の予定ですが、先生、ご予定でも?」


 若干、とげがあるぞ、北川!

 昨日の誤解は、解けただろーが!

 くっそー、出来れば、お前らと関わらず、長期休暇と行きたいところだったが……。


 そう思いながら、刀真は部室の鍵を開け、皆がそれぞれの席に着いたところで、30分の補習を始める前に、部員たちに、とある事の確認をする。


「ゴールデンウィークは部活らしいんだが、自分は休みますって奴、居るか?」


 誤解は解けた筈なのに、なんだか「休みたいのはお前だけだろ」的な眼差しをする部員たち。

 誰一人として、手を挙げる気配がないので、早速、本題へ。


「お前ら、パスポートは持ってるか?」


 パスポートという単語で、一気にざわつき始める部室。


「みんな、持ってるのか? じゃ、持ってない者、挙手を」


 そう言っても、誰一人、手を挙げる者は居ない。


 まぁ、お嬢様たちでしょうからね、そうでしょうね。


「じゃ、帰宅したら、両親に部活の合宿でアメリカに行っても良いかって、聞いて来い」


「あの~旅費は、どのくらい掛るんですか?」


「南城、心配するな、お前らが持参するとしたら、着替えとお土産代くらいだ。飛行機代も、宿泊費も、食費も必要ない。行きはローレンスのプライベートジェット、そして、帰りはラルフのプライベートジェットだ」


 それを聞いて、キャッキャとはしゃぐ女子高生たち、仕舞しまいには、行きたい場所などを言い出し始めた。


「おいコラ、俺は合宿と言ったぞ! なにをハリウッドとか言ってんだ、お前ら!」


「どうせ、行くのはシリコンバレーなんでしょ? だったら、近いじゃないですか」


 シリコンバレーに行くって推理は合ってんのに、ホント、北川は何か一つ抜けてんなぁ。


「どこが近いんだ、500km以上あるんだぞ!」


「え? サンフランシスコからロサンゼルスでしょ? 行ったことあるけど、飛行機で片道1時間くらいでしたよ」


「あのな南城、お前ら、自分たちでチケット取って行くのか?」


「えぇぇぇ~、ラルさんのプライベートジェットで、ブーンっと」


「ブーンっとじゃねーよ、東儀妹! ジェット機飛ばすのに幾ら掛ると思ってんだ! ローレンスにしても、ラルフにしても、日本に用事があるついでに、乗せてもらうだけだ!」


「あぁ~、会長のこと呼び捨てにしてるぅ、言い付けてやろ~」


 あっち行ったら、コテンパンにしてやるからな東儀妹!


「別に構わんよ。そもそも、会長と呼ぶ事の方が珍しい」


「この前、呼んでましたよね?」


 こまけーこと、イチイチ覚えてんなよ、北川!


「あれは、謝罪だからだ!」


 刀真は、大きく溜息を吐いた後、仕切り直す。


「兎に角、合宿であって、旅行じゃない! インベイド社の開発現場を社会見学したり、対戦会やったり、新型筐体にも触れる予定だ。観光する暇など無い!」


「新型筐体!? サイズが小さくなるんですか?」


 そう聞いて来たのは、自宅駐車場に2台置けないことを気にしている、雅だ。


「小さくなる予定らしいのだが、現状では、まだ何とも言えないと思う」


「どうしてですか?」


「それは、常に進化する筐体だからさ。ユーザーインターフェースであったり、あとは聞くところによると、音声認識も試しているらしい。拡張機能が増えれば、筐体が逆に大きくなる可能性もある。とは言え、現状より大きくなる事は、恐らくないと思うけどな」


 ホントは、ウチにも在るんだが、お前らを招きたくはない!


「でも、小さくなって、雅先輩の筐体が此処から無くなったら……」


「それまでに、安西、お前がプロになれば良いんだよ」


 自然な流れで言ったつもりが、やはり、昨日の今日では誤解をネタにする奴も居る訳で、ヒューヒューと口笛を鳴らし、からかい出した南城をキッと睨んで、話しを付け加える。


「別に、南城だって、北川だって良いんだぞ、ドライバー目指しても」


「いえいえ、気を使わなくてもいいんですよ、アタシャ、プロに成れそうにありませんから」と老婆の真似までする始末。


「プロの枠が、32000まで引き上げられるとしてもか?」


「さ、三万二千!?」


「あぁ、先日の会議で決まったらしい。時期についてはまだ分からないが、近々、発表されるだろう。あ、お前ら発表まで、秘密にしとけよ」


「秘密にしてない人から、そう言われてもねー」


 キィィィー!

 あっち行ったら、コテンパンにしてやるからな東儀妹!


「まぁ、プロを目指さないとしてもだ、ドライバーの心理を知る上で、オペレーターもドライバーとして体験しておいた方が良い」


 それもそうだなという感じで、無言で頷く部員たち。


「それよりも、まずは親の許可が先だ。駄目なら、行けないんだからな。黙って来るなよ、一応、お前らの親に確認取るからな」

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