第60話「首脳会議」

 桃李ゲーム部員たちの、質問攻めは続く。

 南城紬なんじょうつむぎは、ここぞとばかりに、一番気になっていたことを質問する。


「どうやって、利益を出しているんですか?」


 すると、再び、ウィンドウが開き、アラブの白装束に身を包んだ男が現れる。


「それがまだ、大赤字なんだよ。俺の名はシナン・ムスタファー。石油を売って、メシを喰ってる者だ。よろしくな」


「おい、シナン邪魔するな」


「ジム……プライベートジェットを2、3機程度じゃ済まなかったじゃないかー」


「それを言ったのは、俺じゃなくて、お前だよ!」


「あれ? そうだっけ?」


「それにしても、皆さん、日本語が上手なんですね」


「あぁ、俺たちは、日本のゲームやアニメが大好きでね。一所懸命、勉強したんだよ」の声と共に、ルイス・グラナドが現れた。


「コラ、お前たち、質問の邪魔をするな!」


 ジムに叱責され、シナンとルイスが手を振ると、二人のウィンドウが閉じられた。


「すまんね、実は会議中だったんだ。もっと出たがりのヤツが居るんだが……」


 そう言って、振り返ってそのヤツを見てから、カメラに向き直すと、小首を傾げる部員たちに、ジムはニヤッと笑って、その理由を続ける。


「そいつはロリコンでね。君たちの前に、出す訳には行かないんだよ」


「オイ! テメー! フザケンナ!」


 ウィンドウは開かれなかったが、遠くの方で、ロリコン(虎塚帯牙)の叫ぶ声が聞こえる。


 マジで、叔父さんだけは出さないでくれ!


 もちろん、ロリコンよりも、身元がバレることを恐れてのこと。


「さて、利益の話に戻そう。おそらく、君たちも気づいているであろうことから。ゲーム内であったり、施設内であったりで行っている広告収入だ。その金額は莫大なんだが、それでも足らない。人件費とか開発費とかね。だから、俺が運用をして、増やしている。登録IDが3億を突破したお陰で、プロを増やす目途めども付いた」


「あ、ラルフさんが言ってたヤツですね」


 その一言で、ジムの顔色が変わる。


「ん? その話を聞いたのは、もしかして、新宿の携帯ショップか?」


「はい」


 ジムは、大きな溜息を吐いたあと、愚痴を漏らし始めた。


「ショップ店員がSNSで、言い触らしてね。ちょうどその時、資本を増やすため、多めに株をさばいてたんだ。そいつが施設内のショップであったことから、インサイダーを疑われてね、大変だったんだよ!」と、最後の『よ』で、ラルフの方を向き睨む。


「どのくらいまで、増やす予定なんですか?」


「最終的には、全員になる」


「全員!?」


「あぁそうだ。全員が『ゲームでメシが喰えるようになる』チャンスが生まれる」


「えぇ!」


「まぁ、これはラルフの最終目標で、俺の目標とは違う。俺は、ENを世界共通通貨にすること。他の役員たちにも、それぞれに目標は違ってあるんだが、結果的に、辿り着く場所は一緒なんだ」


「もうすぐ、そんな時代が、やってくるんですか!」


「ん~、すぐじゃないね。色々と邪魔が入るだろうから……10年か、20年、もっと先かもしれないな?」


「邪魔って、誰が邪魔するんですか?」


「おそらく、それぞれの国から、税金が別途掛けられるだろうね」


「別で?」


「あぁ、現状でも換金の際に、国によっては所得税として支払わなければならない。それを回避するために、ゲーム通貨のままで、サービスを提供してる。でも、これは反応検査でもある」


「検査?」


「拒否反応を示す国を見つける為のね。問題視する議員が多ければ、別で税金を掛けてくる可能性がある。その企ては、君たちにも教えられないけどね」


「なんかワクワクしますね」


「だろ? 俺にとっては、運営もまた、ゲームをしているようなモンなのさ。さて、この辺りにしておこう、俺たちも会議がある。悪巧わるだくみのね」


 そう言って、ウインクすると、ジム、ラルフ、ローレンスのウィンドウが閉じられた。


「おい! コラ! テメーら!」


 虎塚帯牙は、柱に括り付けられ、身動きが出来なくされていた。


「冗談で、ここまでするか、普通!」


「冗談で、ここまでしねーよ」と、ラルフ。


「そうだな」と、シナン。


「そうだよ」と、ルイス。


「そうね」


「米子さんまで!」


「冗談なんかじゃねーよ、ばーか」と、ローレンス。


「テメェーラァァァァァァァ!!」


 一頻ひとしきり笑った後、ラルフが会議の開始を宣言する。


「さて、そろそろ、悪巧わるだくみを始めようじゃないか」

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