第29話「スカルドラゴン」

「解った、100万で受けるわ!」


 それを聞いて、スカルドラゴンは、ニヤリといやらしく笑い頷く。

 だが、慌ててスタッフの宮崎が止めに入った。


「待ってください!」


「なんやねん、お前! 当事者同士で決まったんや、邪魔すんな!」


「では、スカルドラゴンさまも、100万をお賭けになるんですね?」


「なんでやねん! ワイは、場所を賭けとるやんけ!」


「此処のシリアル機は、インベイド社の所有物であって、スカルドラゴンさまの物では御座いません。ただ、お貸ししているだけです。賭けの対象にするとしても、釣り合いが取れてるとは思えません」


「釣り合いが取れてるかどうかは、賭けてる本人同士の問題やろうが! 違うか?」


「学生のMIYABIさまと違って、プロゲーマーを本職にされている貴方は、仮に負けても、他のエリア行くことが出来ますよね? リスクゼロと言っても、過言ではないのでは?」


「なんやと、コラ!」


 スタッフの介入に苛立いらだちを隠せず、半ば脅すように声を張った。

 だが、宮崎は一歩も引く事無く、雅に提案する。


「では、MIYABIさま。私が、必ず、今週中に、設置場所を見つけますので、勝負なされないことを……」


「待て待て、解った! チッ、10万なら文句ないやろ!」


 本来なら、それでも高い金額であるものの、負けた場合の引っ越し費用と考えれば、妥当であると宮崎は結論付けた。


「それでしたら、釣り合いが取れていると考えます」


 そもそも宮崎は、マネーマッチも、スカルドラゴンとの対戦も、阻止する気は無かった。

 マネーマッチは、遅かれ早かれ、いずれ実装されると本部から聞いている。

 だが、それよりも、このスカルドラゴンという男が強く、雅の闘ったことのないタイプのドライバーで、例え負けても経験しておくべき相手と考えた為だ。


「ほな、準備してもらえるか」


 そう宮崎に告げ、スカルドラゴンは自分のシリアル機へと乗り込んだ。


「宮崎さん、ありがとう。でも、スタッフとして、中立を保たなくて良かったの?」


「それは、ご心配なく。私はインベイド社員として、弊社が黙認しいているマネーマッチの上限額へ誘導したんですよ」


「え?」


「それが証拠に、彼は80万とか50万と刻まずに、急に10万まで下げたでしょ?」


「と言うことは、アイツもそれを知っていたと?」


「その通りです、SANAさま。10万という額は、日本の風営法で定められた賞金額の上限なんですよ。例え、ENはゲーム内通貨であっても、換金可能なアイテムですから、あまり派手なことをやると、政府から目を付けられてしまいますからね」


「いずれは、やるんですか?」


「さぁ、それは……解りません」


 そう言って、宮崎は誤魔化すように笑ったのだが、すぐに真剣な面持おももちになって、雅に忠告する。


「それよりも、彼は大阪でマネーマッチを繰り返していた常習犯で、その相手が居なくなったことから、此処へ来ています。人間的にはともかくとして、強さは一級品です」


「アイツのランクは?」


「163位です」


「アタシの100くらい上かぁ……」


 宮崎は、最後に小声で「彼のワイヤーには、十分注意してください」と告げ、準備に取り掛かった。

 雅も、指定されたシリアル機に乗り込み、紗奈もオペレーターの準備をする。



「和也! 相手の順位は?」


 スカルドラゴンは、自分のオペレーターに、雅の順位を聞く。


「278位やな」


 雅は、昨日の昼から現在まで、およそ24時間プレイしていなかった事から、順位を少し下げていた。


「ほぉ~、あのネーチャン、若いのにやるやんけ」


「で、機体は?」


「機体は……っと、GTX1800やな」


「GTX1800だぁ? 素人機かよ!」


にいやん、場所、どうする?」


「いつも通り、ひっかけ橋でえぇわ」


 大阪市の道頓堀に架かる戎橋えびすばしは、ナンパの聖地と言われるほど有名で、関西人の多くは戎橋の事を『ひっかけ橋』と呼んでいる。

 スカルドラゴンが、此処を選んだ理由は、土地勘がある事に加え、自分の乗るGTMに適していたからだ。

 道頓堀沿いは、大きなビルが立ち並び、隠れる場所が多いが、いざ戦おうとすると、その建物が邪魔になる。

 この場所で、広い空間と呼べるのは道頓堀川か、国道25号線の御堂筋みどうすじしかなく、植え木と側道を足しても、幅は8車線ほどで、GTMが動き回るには、どちらも少々狭い。


「紗奈、相手の機体は?」


「GTR3200、今月出たばかりの新機種ね」


「使用武器は?」


「えーっと、相手の武器は……っと、ドラゴンズクローって名前のワイヤー武器ね。先に鉤爪かぎづめが付いてるわ。で、この爪なんだけど、攻撃だけでなく、相手を掴むことも出来るらしい。あと、その爪の後ろに、推進力をつける噴射装置が付いてる。武器は……それだけみたいだけど、そのワイヤーは、8本在るみたいね」


「何がスカルドラゴンよ、タコじゃない」


「ヤマタノオロチって、言いたいんじゃないの?」


「それなら、オロチって名前にすりゃいいのにね」


「たぶん、先にニックネーム取られたんでしょ。きっと、アイツ、厨二ちゅうにね」


「ドライバーネームに、†(短剣符)の記号が付いてたりして!」

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