ブラックブックの転生者

只野たかし

プロローグ

すがすがしい気分だ。

頭に風が吹いたように、様々な思考が僕の頭を流れる。

思考能力が上がるとは、こう言うことなんだろう。


さて、ここはどこだろうか。

本の挿絵でしか見たことないような、果てしない草原。


これが、違う世界ってやつなんだろう。


草原の風が、僕の頬を撫でる。

鮮烈な草の香りが鼻に飛び込む。


この世界に送る代わりにどんな力でも与えてやると言われたのに、

あろうことか俺の要求は、知能の向上と他人に共感する心を消すことだけ。


その時のセリフは覚えてる。「人としての力で見返さないと、自分で自分を見返すことにならないんだ」だったか。


なぜそんなことをしたのかは分からない。まあ多分アホだったんだろう。

女神とやらからも呆れられた。そんな貧弱な条件で行くのはあんまりだと。俺もそう思う。そんなこんなで、持たせてもらったのはこの本だ。


白紙のページを開くと、たちまちの内に文字と挿絵が現れる。

表紙にも、『超簡単!サバイバル入門』との文字が描かれる。


この本は、元居た世界に刊行されているどんな本の内容でもコピーできる本だ。

元の世界では金さえあれば手に入れられる知識。それなら文句もないだろうとあいつは言った。今の俺からしたら、よく説得してくれたなと思う。


さて。とりあえず水の作り方でも調べよう。

あたりには民家の気配すらない。水分がなければ生きていけない。

とにかく生命の危機だ。


でもダメだ。ビニールだの木炭だの、何らかの道具がないと使えない方法ばかり。

俺は着の身着のままでここに来たのだ。

現代の道楽人が、好き好んでジャングルに行くのとはわけが違う。


現代に刊行された本の中身しか読めないから、こんなことになる。

けっこう欠陥もあるらしい。


まあいい、とりあえず深呼吸して、伸びをする。

慌てても仕方ない。これからどうしようか。


こんな世界に来たんだ、どうせなら思いっきり暴れてやる。

金も欲しい。力も欲しい。できれば手下だって欲しい。


短い人生だ。思いっきり快楽をむさぼってやろう。


そしてなぜだか、それが実現できそうな気がして。

植物の草原の空気を、胸いっぱいに吸い込んだ。

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