第2話 勇者たち、太る

「おい、どうしてお前らそんなに太っているんだ?」

勇者ライムは、かつての仲間に尋ねた。

それぞれ、当時の面影はあるものの、背景の銅像と見比べると、やはり見る影もない。

最早、別人と言って相違ない。

「それをあなたが聞くの?」

魔術師ミントが不機嫌そうに答えた。体型と同じく、その声は野太く変わっていた。

「言うまでもなく、私たちが魔王を倒してしまったからよ」

ため息まじりに、ミントは続ける。

「魔王がいなくなって、この国は平和になった。そのおかげで、軍事に割いていた国力が工業・農業へ回された。その結果、私たちの生活は、こんな感じで豊かになったのよ」

ミントは周りの景色を指し示す。食べ物を販売する露店が並び、旅の芸人が人を楽しませ、人々には笑顔が溢れている。魔王軍と戦っていたころの王都とは違う。寒さに震え、飢えに苦しみ、魔王軍への憎しみだけが満ちていた風景は、そこにはない。

これが、俺たちが手に入れた、魔王から守り抜いた世界。ライムは、魔王を倒してよかったと、改めて感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る