04 グレートデイズ ④


 僕は、


 たくさん服を持ってる。

 どれもお母さんが選んでくれた。


 たくさん玩具も持ってる。

 どれもお母さんと買いに行った。


 お母さんは何か買ってくれる時、僕にこう言う。


「お父さんのお金で買ったのだから、お礼はちゃんとお父さんに言いなさいね。」



 僕には


 たくさん友達もいる。

 お母さんは「いい友達だね」と言ってくれる。


 一人好きな子がいる。

 お母さんは「可愛い子だね」と言ってくれる。


 お母さんは誰かと遊びに行く時、僕にこう言う。


「お父さんが帰ってくる前には帰りなさい。一緒にご飯を食べましょう。」






お礼…?一緒に…?なんで?





 一緒に買い物に行ってくれたのはお母さんだ…

 料理を作ってくれるのもお母さんだ…





お父さんなんて…かまってくれないじゃないか。




 遊びの予定も仕事が優先。

 遊ぼうと言っても…「もう寝なさい」

 何か見せに行っても…「もう寝なさい」




僕はただ、かまってほしかっただけだ。




 車に飛び出したのもそうだ。

 ゆっくり走っていたから平気だと思った。

 まさか歩けなくなるなんて…

 思わなかったんだ。


 僕が入院している間、お父さんは一回しか来なかった。

 その一回だって、お父さんが僕に発したのは



「もう寝なさい」



 この言葉を聞いたとき



「あぁ、僕は邪魔なのかな」



 そう思ったんだ。






「…う…や。…灯矢。」


その声で、僕は目を覚ました。

太く、強く、とてもよく知っている声。


僕にはまだ出ないしっかりとした声。

お父さんの声。


「…お父さん。」


なんだろう…

もうあの専門家の人は帰ったのかな…


どれくらい寝ていたんだろう。

眩しい…カーテンが…あいてる。



「超神戦紅ぺテルギオン。」


「…?」


僕の好きなアニメだ…


「好きなゲームはヴェルダークシリーズ。好きな食べ物はハンバーグと豆腐の甘煮、チョコレート、明太子。好きな女の子は同じクラスの香理ちゃん。」


「おとうさん?」


「好きなカードゲームはデュエルキング、青いデッキを使ってるんだったな。そうえば、好きな色も青色だった。」


「どう…したの?」


「好きな動物は犬とパンダ。好きなスポーツはサッカー、野球。」


「………。」


「まだまだあるぞ。赤みの刺身、神田屋のプリン、アイスクリーム、ゴラドンボール、ブケモン、限界ウォッチ…それに」


「……。」


「それに…お母さん。」


「…」


「お前の好きなものは何でも知ってる。」


お父さんは、足の動かない僕を強く引き寄せた。

そして優しく抱きしめた。


「お父さんもな。お前の母さんの事が一番好きだった。」


「…」


「けどな。今から7年前、母さんと同じくらい好きなモノができたんだ。」


「…」


「お前の一番好きな物は、俺じゃないかもしれないな。」


「…」


「でもお父さんの一番好きな物は…7年前、お前が生まれてからずっと…お前と母さんだけだ。」


なんで…


「愛している。」


やめて…

そんなに…強く…

言葉が…涙が…


お父さん…


僕も…




大好きだよ。













鹿野灯矢が起きた時、カーテンは全部取り去られていた。

田舎の夕焼けってきれいだ。

緑豊かな場所っていいもんだ。


病室の前の廊下で、俺と鹿野灯矢の母親は二人を見守っていた。


「能力がまだ発現するようでしたら、何度も口に出して、愛してると伝えることです。何度も灯矢くんにもわかる形で。」


「…ありがとうございます。」


「一応これも渡しておきます。」


俺は母親に外国のロゴが入った紙袋を手渡した。


「能力の精度を下げるお香です。日本じゃ売ってないんですが、足りなくなったらネットで探せば安く買えますよ。」


「あの…何かお礼を…。」


「いやいや、商売じゃないんで。大学の研究を手伝ってるだけの身なんで…」


「お金で無くてもいいですよ。あなたは…灯矢の…私達の恩人なんです。」


「そう言われてもなぁ…う~ん…あ。じゃあ…」





帰りの電車。

田舎の電車ってのは、夜になると外が真っ暗でつまらない。

大学に戻って報告書をまとめなきゃいけないし…憂鬱だ。


子供って言うのは結構小さな事でも悩むもんだ。

いや…彼にとってはきっととても大きいものなんだろう。


たまには大人も、子供にあわせなければならない時もある。

寄り添わなければならない時もある。


CDプレイヤーを持ってきてて良かった。

お礼でもらったリバティーンズやストロークスのCDも…

俺の憂鬱な気分に寄り添って歌ってくれる。








No1.鹿野灯矢

能力名:グレートデイズ(命名:失慰イノ)

種別:観察系 終事効果型

失ったモノ:お父さんからの愛


能力者本人が自分の事を愛してると確信した人物が対象となる。

命令を言ったのち「お願い。」と発すると対象者は無意識に命令を遂行する。

その間は意識は飛び記憶もしないため、対象者は記憶を失くしたと思いこむ。

失ったモノを得た為、能力消滅。

…おそらく。

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