02 グレートデイズ ②
鹿野灯矢の入院はあくまで両足が動かなくなったからだ。
彼の異能力と入院は関係がない。
しかしその病室は、まるで監獄のような重い空気を持ち、まるで彼を監視するような気配さえ感じた。
「ねぇ、けむりくさい…これ…なに?」
俺は彼の机の上に皿を出し、お香に火を付けた。
少し薬臭い煙が出る。特別なお香。
「まぁ…蚊取り線香みたいなもんかな?」
「ふぅん。」
…
「目の中のゴミ…あるでしょ?」
彼はゆっくり語り出す。
自分に起きた奇妙な物語のプロローグ。
「事故の後、僕、お母さんに仕事に行って欲しくなくて「行かないで」ってお願いしたんだ。」
年齢に見合わない、妙に落ち着いた口調。
「そしたら…目の中のゴミが、光りだしたんだ。お母さんの顔がだんだん眠たそうになって、その場で…僕が眠るまで一緒にいてくれた。」
「そこで自分の能力に気づいたのかい?」
「お婆ちゃんとか…友達のみっちゃんとか。だんだん…これは僕がやってるんだなって。」
父親から聞いた不気味さはそこには無く、
鹿野灯矢は俺が思っていた以上にただの7歳の少年だった。
「あの光は…一体何なんだろう。」
「それは目の中のゴミじゃないよ。」
「…そうなの?」
「能力者の力の源とされるエネルギーだ。俺達は『ダスト』って呼んでる。能力者にしか見えない。」
「ダスト…」
「目の中のゴミって、視線に合わせて動くだろ?けどダストはそれとは関係ない動きをする。」
鹿野灯矢は、目をきょろきょろさせる。
ちょっと面白い。
「本当だ…」
「ダストって言うのは空気中に含まれていて、能力を使う時に光る以外はただのホコリみたいなもんさ。」
「…へぇ。」
彼はまだ目をきょろきょろさせている。
「そして俺たちは君みたいな能力者のことを失った者…ロストマンと呼んでる。」
「…失った者?」
「そう。ロストマンになった者は、イコール何かを失った者なんだ。」
何か…と俺は言葉を濁した。
今の彼の姿を見れば失ったモノは明らかだったからだ。
もう歩くことの出来ない両足。
外で走ることのできない身体。
7歳の少年にとって、それがどれほど大きなモノなのだろう。
「俺は…君の能力を奪う事ができる。」
「…え…」
彼の表情が少しこわばった。
やはり能力には未練があるようだ。
俺に対する警戒のレベルが上がったのがわかる。
「俺もロストマン。そういう能力なんだ。君から能力を奪うことが出来る。君の両親はそれを望んでる。」
「…やだ。」
「そっか…」
ここまでは、想定範囲内と言うやつだった。
ロストマンの能力はほとんどの場合、自分の望みを叶えるためのモノが多い。
彼は1つ失ったけれど、その代わり能力によって何か望みを1つ叶えた。
それを奪おうとすれば、誰でもこんな表情になる。
「ならどうしようか。俺の意識を操ってみるかい?」
これは小さな挑発だった。
理由は彼の能力を見ておいた方が良いと思ったからだ。
ダストの活動を抑えるお香も部屋に充満してきてる。
さぁ、鹿野灯矢、君の能力を見せてみろ。
「出来ないよ、そんなこと…」
…
…
…
…え?
やべぇ。
やり方間違えたか?
「出来ないって…君の両親にやったみたいに、俺を操ってみればいい。」
「誰にでも出来るわけじゃないんだ。お医者さんとか、初対面の人には効かなかった。」
「そうなの?」
…つまり。
能力の対象者には条件がある…という事なのだろうか。
例えば血縁じゃないといけないとか…?
「そちなみに…能力を掛けることが出来た人を教えてくれるかな?覚えてる限りでいい。」
「えっと…お父さん…お母さん…友達のみっちゃん…あと婆ちゃん。」
血縁ではない…な
「でも…」
「ん?」
「お父さんには最近かからなくなってきたんだ…」
「それは…能力自体が使えないっていう事?」
「そういう時もあるし…かかってもすぐ解けちゃったり…」
能力が弱まってる…ということなのか。
そんな話聞いたこと無いが…
「お母さんには今でもかかるのかい?」
「うん。」
力が弱くなってるわけじゃないみたいだ。
父親にだけ能力が効かなくなってきた…?
つまり父親にだけ耐性がついた…?
そんなことあるのか?
「そのことをご両親は知ってるのかい?」
「いや、知らないと思う。」
「そうか…」
「…」
…もしかして。
「最後に質問してもいいかな?」
「…うん。」
「君はその両足以外に、何を失ったんだい?」
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