謳う戦鎚
ドクダミ
僧侶の門出
00 王都へ…
…――ガタンッ ガタンッ ガタガタンッ ……
「――…なぁ、あのガキ…本当に「
……あんなモン持ち歩く
「まぁ、確かにそうだが…。でも、確かに「カラミタ教」公布の見習いの印持ってるし……。」
…――デリトア大陸に存在する、『アルテニカ聖王国』の王都"アルカンデラ"へ向かう。それなりに値の張る……「護衛付き・都市間乗合馬車」の
一間、何処にでもいそうな"ただの青年"が手に持つ……灰色の被せ布はしてあるものの…。どう見ても鈍重そうで、且つ若干の恐怖心が掻き立てられる様な。無骨な『
馬車の護衛をしていた冒険者達と、時折馬車の乗客の様子を伺っていたこの荷馬車の御者は。きっと今回は、そんな光景は拝められないであろう事悟りつつ……。一応…この瞬間を楽しみに待っているかもしれない乗客の為に。後部にいた先程の二人の冒険者が其の事を伝えてみるも。案の定……あの陰気そうな青年の妙な雰囲気に充てられたのか。その冒険者の知らせに一瞬喜色を示す乗客達は直ぐに、あの青年の事が頭にチラつくのか。何時もならばだいの大人でも、一人か二人は馬車の真横に備えられた――今は閉じている――切り取り窓から顔を出そうと立ち上がるのだが。そういった事もなく……。何とも言えない空気が漂う中――…。
「――ねぇ、ミーナ!王都がもう見えるんだって!見に行こ!!」
「うん!!見るみる~!」
元気な二人の姉妹が冒険者の呼びかけに反応し、無邪気に手を繋ぎ立ち上がると。馬車の後部の立ち見用に横へ延ばされた、補強タラップに拙く足を掛け体を馬車からはみ出させ王都を見物する。その余りに安定感のない視線に、後部の二人の冒険者が奔り寄り。姉妹二人を抱きとめると気前よく、よく景色が見える様肩車をしてやると。キャッキャッと楽し気に笑いながら。馬車が今いる立地からだと丁度少し上から眺める様に見渡せる、立派な王都の城壁とその奥に小さく見える王城に眼を輝かせ。「王都ってスゴイね!!」っと絶賛し合う、可愛らしい姉妹達の姿に。その親と他乗客達の空気が和みを見せる中。そのキャーキャーと騒ぎ立てる姉妹達の姿を、チラリとみるだけで済ませるあの青年の態度に。乗客達の幾人かが険しい視線を投げつけ。少なからずの憤りを見せ始めた頃……。
漸く満足したのか、揃って父母の元へニコニコと笑って戻ってくる。王都はすっごく大きいとか、小さなお城が見えだのを親へ報告しだす彼女らの姿に。又も乗客たちが和まされ、癒されていると。姉妹の姉――"レーナ"が何かに気づき鼻をスンスンと鳴らし始め、其れに習い妹のミーナも鼻を鳴らし始める。そんな姉妹の奇行に、如何した事かと両親が不思議に思っていると……。パッとレーナとミーナが立ち上がり、突然馬車の先頭…奥へと進み始め。その姉妹の進む延長線上にいた人物に気づき、両親共々心の中で「あっ。」っと叫び。引き留めようと手を伸ばすも、時すでに遅く……。姉妹達はズンズンと奥へと進み、お目当ての先程姉妹が嗅ぎ取った微かな"匂い"の発生源である―――"あの青年"を無事発見し。二人はまた小さく鼻を鳴らすと、今は目部下に
「ねぇ!お兄ちゃん、何だか「不思議な匂い」がするね!…何で?」
「なんでぇ?」
「……匂い?ああ…コレの事か……。」
姉妹達の暴挙に、思わずパックリと口を開け固まる両親をよそに…。レーナが自身が感じ思うままを言葉にし、それに又ミーナが拙くオウム返しすると。突然の姉妹達の突撃に若干面食らった青年だったが……。直ぐに、元の表情の乏しい顔に戻ると。敏感に姉妹達が突き止めた"匂い"の元に心当たりがあった青年は、腰へ巻き付けていた
「――!…ちょっとッ!!うちの子に何をしてるの!?」
猛然と、それなりの大声を張り上げ。呆然と姉妹と青年のやり取りを見つめていた母親が、青年の取り出した得体のしれないモノを認めると。怒り心頭と言った様子で姉妹達の背後まで来ると、まるで青年から庇う様に自身の傍へ姉妹を引き寄せる。そんな、突然何か怒り出し。自身達を強く引き付ける母の様相に、何が何やら解らず……ぱちくりと目を瞬かせ、青年と母を見比べる姉妹達…。子を守りたい母と不気味な青年の対決に、荷馬車内に何とも言えない張り詰めた空気が流れだし。馬車後部の解放された出入り口から、その様子が否が応でも飛び込んでくる。あの冒険者二人が固唾を呑み、自分達が手を出すべきか迷っていると……。母親から突然怒鳴りつけられた青年が、徐に弁明の言葉を述べる…。
「……何か、誤解を招いたようですが。私は…特に、まだなにも――…。」
「したじゃない!!その怪しい薬は何?子供に、そんなモノ見せないでッ!!」
「?……怪しい、薬?」
青年の弁明に姉妹の母親がヒステリックに叫び、青年が手の平に乗せて灰色の固形物を指さし非難する。それに同調する様に周囲の乗客が青年へ、再び鋭い視線をやるも。青年は母親が発言し、「怪しい薬」と指摘した灰色の固形物を見やりながら。…口を引き結び、何とも言えない表情で顔を掻くと。青年はもう一度、母親へ視線を合わせ……。今度は礼儀正しく、
「…あー、"奥さん"…。如何やら本当に、勘違いしている様なので言っときますが…。コレは「怪しい薬」ではなく、コレは――――…「
「……へ?」
「…「弔い香」です、「怪しい薬」ではなく。ご存知でしょ?"
「…あ……。」
青年の弁明……"指摘"に…。一瞬、何を言われたのか理解できず。思考が一時停止した母親は、その数秒後に。その、青年の言葉の意味を全て理解し……。
思わず、口を覆い。顔を仄かに赤く染めると。何とも居た堪れない空気の中…母親はか細い声で自身の羞恥心と、青年への申し訳なさが多分に含まれた謝罪をすると。姉妹達を連れ、母親は自分達の席で待っている夫の元へ戻ろうとするが。娘である姉妹達は、如何もあの「弔い香」の香りを纏う青年に興味津々らしく……。母親が手を引いくのも構わず、青年へ楽し気に話しかけ始める。
「そっか!どっかで嗅いだような匂いだなぁ、って思ってたけど。そっかぁ、あのお香いっぱい焚く日に使ってたお香だったんだっ!!」
「ああ、そうだよ。……それにしても、よく嗅ぎ分けたな?別にまだ焚いてもいないぞ?。」
「だって!いっつもその日になると、お家じゅうが煙だらけでになってね。その後、お家がいい匂いになるんだよっ!!わたし、この匂い大好き!!」
「…そうか。そんなに好きなら…ほら、やるよ。」
そう言うと。青年は手の平に出していた…粘土細工の様な風合いの小さな三角柱のお香を、姉妹達へ一つずつ手渡すと。受け取った姉妹達は飛び跳ねて喜んだが、姉妹の両親は少し困ったような表情をみせ青年を見つめるが。娘達が存外に喜んでいる様子を見て仕方なさそうに眉を下げ、青年へ軽く頭を下げる……。
――…そうして、特にそれから何か騒ぎが起こる事はなく。また最近噂となっていた、恐ろしい下賤な野盗からの襲撃もなく…。平和な乗合馬車の小旅行はもう直ぐ終わりを告げ。王都周辺に張り巡らされた、頑健な石の城壁が間近に迫り。その10メートル以上もの圧倒的な高さと、その城壁に取り付けられた四つの大門の姿に圧倒され。乗客達は口々に短く感嘆の声を上げ、そそり立つ城壁を下から見上げ眺め。その内側に広がる王都アルカンデラの華やかな城下町と、そこに軒立つ羽振の良い店構えの立派な高級専門店の数々に胸躍らせながら。王都の正面玄関である東大門から入った乗合荷馬車は。予め定められた、馬車・乗合馬車用の左側へ寄ってゆき。薄茶の革鎧を身に付け帯剣した、守衛兵士による。既定の乗合馬車の御者と護衛の冒険者パーティーにその人数と、不審な乗客がいないかの確認の際。
案の定……荷馬車奥に居た青年の手に持つ、"武器"らしきモノが守衛の兵士の目に留まる…。
――この"世界"に於いて。一般国民が武器を携帯する事は、決して、違法ではなく…。其れはこの世界には今だ多くの、未知の"魔獣"・"魔物"などの危険な大自然の驚異が跋扈し。極稀に究極的に食い詰めた極貧農民や、どうしようもない荒くれ者達が寄り集まり……平気で略奪と殺人を繰り返す"野盗"達が間々存在する都合上…。この人を殺傷せしめる危険な"武器"の所持が、直接「命を守る」事に直結している為。この様に、武器の個人所持は基本的に「合法」として。多少の微妙な規則の違いはあるが、ほぼ全ての全て国々に適用できる"常識"である。
……とは言え。普通平民が所持できるのは、金銭的な面からに見て。大抵は短剣か、小ぶりの直剣程度がいい所で。それ以上の重装となれば、それは野盗か冒険者の二択ぐらいなものと考えて差し支えなく。そういった観点と、"常識"を鑑みると。青年は、流石に野盗には見えないが…。しかし、青年は冒険者の"証"である「小さな石のピアス」を付けてはおらず。…ある程度、道中のあの騒ぎがあってから。青年を見る乗客の視線は少なくなり、その質も変わっていたが。それでも…何処か近寄りがたい雰囲気の青年の周囲は少し距離が置かれており。如何にも「コイツは何か変だ。」っと、乗客が言っているかの様に守衛兵士には映り。その顔を更に厳めしくしかめ。青年に声を掛け、降りるよう命じると……。
それを聞いた先の姉妹レーナとミーナが守衛兵士に、「お兄ちゃんをいじめちゃダメッ!!」っと叫び。それを青い顔をして宥めた姉妹の両親が荷馬車で遭った事を説明し、如何か見逃してやってくれないかと懇願するが。王都の治安と平和を守る守衛として、其れだけではと…少し言葉を濁しながら断った為。結局……青年は荷馬車から降ろされ。先に乗合馬車は門を通過させられたが。青年だけは、大門の脇に立つ円柱状の大きな塔……監視塔内へ連れ込まれ。何故、そんな物騒なモノを冒険者でもないのに所持しているのか。一体何処から来たのだの質問攻めになり……。不本意ながら、青年は戦鎚を所持している説明の為。自身の余り人に話したくもない……"生い立ち"と。其れと同じくらいには、見せたくない黒革手袋の下の両手の傷痕を見せる事に成り。其れを聞き、見た守衛兵士達は流石に……青年の事についてのそれ以上の追及を取りやめ。一応、少しばかり金が掛かるが。之から王都内で其の戦鎚の事にしつこく言及されるのが嫌ならば。通常なら大量の武器類を主に扱う"武器商人"へ発行する事が常である、「危険武具類所持・運搬許可証」なる薄い金属の板を持っておく事を勧め。
青年はその話と、武器一本ではそう金は掛からないと聞き了承した為。一旦戦鎚を預かり……本来は大量の武器類の総量を量る「量り機」に。一本だけの戦鎚を乗せその重さを量り。その重さから予め定められた目安に対応した徴収金表をみてその金額を徴収するのだが……。表を見て、一人の守衛兵士が「あ…。」っと間抜けな声を上げ。何だ何だと同じく表を見た守衛兵士は、困った様に頭を掻く…。如何したのかと問えば、少々極まりが悪そうにその問いに答えた守衛兵士が言うには。
確かに徴収金はそう大して掛からないのだが、その照らし合わせる目安……重量が低すぎて、表の徴収金と当てはまらず。しっかりと定められた徴収金が算出できないのだと言う……。計算すれば良いのだが、如何やらその表の設定額は思案者達のちょっとした"匙加減"な処があるらしく。別にぼったくりと言う程ではないが、随分大昔に製作された表の様で……。大体の金額は算出できるが、それは規定された「正しい徴収金額」である訳でなく。
……彼ら、栄えあるアルテニカ聖王国の名の下に、王国の守護の一端を任せられているいち"公人"としての面も併せて。きつく、厳しく、調練を重ねて来た兵士達は。生真面目にそんな細かい事に足を取られ、どうするべきか話し合っていると。丁度そこへ通りがかった老年の守衛兵士が来た為、青年を連れ出した若い守衛兵士は今話し合っている問題について話すと。「…何をやっているのか。」っと呆れた声を上げると。その若い守衛兵士達に「次からは、もっと早く意見を求める様に。」と釘をさすと、青年へすまないねっと声を掛けると。如何やら昔、こういった事を経験したらしい老守衛は。手早く
「ははは…いや~、本当にすまなんだね…。あの証書版は、余り一般の平民……其れも個人の荷物へ適用する事は殆どなかったから。今だに昔の古い基準どうりで、融通が利かなくてねぇ……。」
「いえ…元はと言えば、自分がアレを持ち込んだのが不味かったので…。それに、身分も…余り確かではありませんから……。」
「…身分?身分なら君が乗って来たあの、"王都直通乗合馬車"に乗れた時点である程度大丈夫だろう?それに、君は「僧侶見習い」……ただの荒くれ者が名のれるものではないし、"印"も…ちゃんと正規のものであるようだし。」
そう言って、今は着けている――右手の甲部分だけ、四角く切り抜かれている――青年の右手の甲に見える。3センチほどの同じ長さの線が直角に交差した、黒い十字の入れ墨に視線を落とし。「大丈夫だよ。」っと青年の懸念を一笑してやる老守衛に。青年は少し影のあるその顔から、少しだけ表情を綻ばせる……。すると先程、書類を何処かへ持っていっていた若守衛が戻り。手に持った小さな金属の板と小さな布切れ…そして何十個かの
「さて…先ず、この証書板の徴収金はきっかり"1000ルカ"になるのだが…。手持ちはあるかな?」
「はい、大丈夫です。」
老守衛から金額を聞き。極々一般な、平民の金銭感覚からすると…それだけあれば――しっかりと具の入ったスープと丸パン、一皿の凝った肉料理に安い食前酒という…。ちょっぴり豪勢な、旨い一人分の夕食代ぐらいに匹敵する金額を。特に、躊躇した様子も見せず。1000ルカ――アルテニカ聖王国銅貨一枚を自身の財布…革袋から引き抜き、老守衛へ支払う。老守衛は、そのまあるい暗い土色へ変色した銅貨をくるりと裏返し。表裏に刻印されたアルテニカ聖王国の国章と、その銅貨の価値1000ルカを示す記号がしっかり目視できることを確認すると。その銅貨を自身の横へ追いやり。いよいよ、証書板についての説明を青年へ語りだす。
「では次に、この証書板――「危険武器類所持・運搬許可証」の素板であるこの金属板に。恐縮なんだが…この針で一滴だけ、君の血を垂らしてくれるかね?」
「はい…。」
老守衛に促されるまま、青年はその受け取った針で指の腹を浅く刺すと。ぷっくりと噴き出す赤い血液の雫を針へ纏わせ、針から滴らせる様にごく少量の血を金属板へと垂らす…。
…何らかの"契約"や、"身分の証明"……今回の様な"許可証"等を交付してもらう際によく見られる光景を若守衛達が見守る中。青年の血が垂らされた金属板を先程の"謎の金属の箱"――「簡易・記録刻印魔導機」の上面へ置き。複数の何か記号が振られた
そんな、幼い頃"父"に連れられ…。大抵の聖王国民であれば、満8歳の近親者のいる子供から持つ事と成る「アルテニカ聖王国民身分証明板」――通称"タグ"製作時に見たっきりの。懐かしく、物珍しい光景に青年は少し目を見張る。そんな様子の青年を微笑ましく見ながら、老守衛は証書タグを手に取り。一応、しっかりと記録が刻印されたかを確かめ。青年へ、その証書タグを渡す。
「……これで。もし、君の所持するあの"戦鎚"について、何かしら難癖をつけられたとしても。このアルテニカ聖王国法の名の下に。君の武器類に対し、同意なしの強引な没収行為は法的に認められず。又、この王都アルカンデラ内限定且つその城壁外へ出ない限り。その武器類の公共での携帯を許可するものである……。っと、こんな感じかな?…まぁ、基本的に。此れで君は、見た目危険そうな武器類を携帯をしていても。法的には、何ら問題はなくなったわけだ、が。……私としては、王都へ入ったなら。出来るだけ早めに、今夜の寄宿先を捜すことを勧めるよ…?…。」
「……そうさせて頂きます。」
「そうしなさい。……まだ認定を受けていないとはいえ。「僧侶見習い」へ手を出すなんてことは無いとは思うが…。……気を付けなさい。」
「はい。…お手間をお掛けしました……。」
いやいや、っと老守衛が小さく答えると。そのタイミングを見計らい、青年の戦鎚と。この監視塔へ連行された際に提出していた、その他の荷物――立派な造りだが若干古びた革の"
「…――あっ!お兄ちゃんだぁーっ!!」
「は?って、うおッ!」
「おにいちゃーん!!」
何処か聞き覚えのある、愛くるしい少女達の声が響き。やっと終わった手続きに、若干放心状態であった青年の腰回りへ。突如、突撃してくる――レーナとミーナの姉妹は。そのまま青年の腰回り…足に張り付き、きゃいきゃいと嬉し気にじゃれつくが。余りにも突然な登場と、既に青年より先に門を潜っていった筈の姉妹が何故ここに居るのか。…そもそも、何故、
「こ、こらッ!レーナ、ミーナ!何てことしているのっ!!」
「ああっ、申し訳ない!!お前達ッ!"お兄ちゃん"は疲れてるんだから離れなさい!ほらほら!!」
えーっ、っと駄々を捏ねる姉妹を青年から引き剥がし。改めて青年へ頭を下げる、姉妹の両親達…。当然と言えば当然だが、何故かあの荷馬車の親子4人が勢ぞろいしだした状況に。一旦、「…あー…平気ですので、気にしないでください。」っと無難に返しつつ。青年はこの状況が呑み込めず、困惑した様子で眉を寄せていると。老守衛が近づいてきて、事の次第を詳しく、話してくれた…――。
「――っという事で。このお嬢ちゃん達が君の事を心配して。乗合馬車を降りた後も、門の前で"お兄ちゃん"を待つと聞かなくてね…。其処を私が見掛けて、一旦お嬢ちゃん達を宥めて。近くの、監視塔のこの出口が見える店で待っては如何かと説得して。其れで、後は知っての通り私が君らしき連行者の取調室へ出向き。…今に至る、という訳さ。」
「…それは……本当に、ありがとう御座いました。」
「はははっ!!気になさんな。私は可愛いお嬢ちゃん達の泣き顔が見たくなかったのと。…如何やら無害らしい「僧侶見習い」青年が、おかしな疑惑で罰せられやしないか心配だっただけさ。」
その老守衛の言葉に、やや肩身を狭くする若守衛達に老守衛が微かに目を走らせる中…。その説明を聞いて、随分と世話を掛けてしまっていたようだと。青年は老守衛に感謝しつつ……本当に随分と親切な守衛兵士だと、少し、何か引っ掛かりを覚えるも。「…助かったのも事実。」として、自分の悪い癖だと頭を軽く振り。青年は老守衛への、おかしな疑惑をサッサと何処かへ追いやると。
…気まず気にこちらへ見やる、姉妹の両親達の視線に応え。やんちゃな姉妹達も交え、数言話し合うと。
如何やら親子は、元々王都に居を置く"王都民"であり。王都アルカンデラから少し離れた、母方の叔父夫婦に会いに遠出をした帰りであったそうで。運搬業に携わる父親の方から、これも何かの縁だからと知り合いの宿屋を紹介してもらい。姉妹達は其れを聞いて、「家に泊ればいいのに!」と叫ぶが。流石にその申し出に父母共に僅かに眉を寄せ……青年としても、其れは流石に遠慮したいと固辞した為。残念がる姉妹をよそに、姉妹の両親と青年は安慮の溜息を吐く…。その後、世話になった老守衛へ親子共々感謝の言葉を述べ。青年はそこで、まだ青年と遊び足りなそうな姉妹達を抱き上げた父母達と別れ。教えられた宿屋への簡単な道案内を頼りに、親子とは違う脇道へ入ろうとした時。
…ふと、後ろを振り向いた青年は。その少し離れたあの監視塔から、若守衛達とは違う…。立派な金属の軽装鎧を身に着けた、壮年の兵士が姿を現し。何か老守衛に向かって言葉を述べると、恭しく頭を下げている……。あの老守衛は思っていた以上に、"偉い兵士"であったのか…と。内心で小さく驚愕していると。その遠くで、こちらに背を向けていた老守衛がこちらへ少し顔を擡げ。その視線――その"瞳"とが、青年の瞳とガッチリと合ってしまい。微かにニヤリ――っと嗤う老守衛に。背筋がぞくりと、冷たくなるのを感じた青年は。サッと視線を外し、気持ち足早に宿屋への道を急ぎ進んでゆく……。
その青年の反応に、遠くで老守衛の愉快そうな笑い声が聞こえた気がしたが。青年は其れを無視し、歩を進める。通りすがる人々から。青年が手に持つ、彼自身の身長より若干長い。その灰色の被せ布がされた"
――――今年で満18歳と成る、『僧侶見習い』"ユスレス・スミンズ"は。
明日の、今後の自身の身の振り方を決定づける儀式――「
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