第3話 VSスライム

「さて…と、着いたぞ」


 山頂に着いた二人。

 そこには直径100m程の大きな穴があった。


「さぁ変態、ここに飛び込め」


 アドスが投身を促すと、変態は急にモジモジし出した。


「…あの約束…忘れていまいな?」


 変態はアドスに問いただす。


「ン?あの約束?」

「…我が世界中の強者に勝ったなら…


 貴様が我の嫁になるという約束だ!」


 変態はバッと顔を背けながら言い放った。頬は真っ赤に染まり、ちらほら降ってくる雪がジュゥ、と蒸発していく。


「あー、分かった分かった」

「ならば!」


 トゥッ!と変態は巨口へ身を投げ出した。


「変態ーッ!一ヶ月以内に帰ってこいよーッ!」


 アドスは落ち行く変態に向かい声を掛けた。


「誉めるなあぁぁぁぁー…」


 落ち行く変態は顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。


 龍霊山。

 その頂きの穴は3万メートル以上地下のダンジョンへ繋がっている。


 『ダンジョン』はこの世界に点在し、全てのダンジョンは一つに繋がっている。しかし、正しい入口から入らねば永久に抜け出すことは出来ないのだ。


「よし、行くか」


 そう言うと金髪の勇者はブン!と姿を消した。


 後には寒風の吹く穴の空いた山頂が佇むばかりだった。


---


 ビュオオォォー!

 ボッ!ボボボボボボ…


 永遠とも思える時間を投身した変態は落ちて行く。


 途中、変態は『断熱圧縮』により炎に包まれた。空気との摩擦による『摩擦熱』は、実は発火までには至らない。超スピードによる大気との抵抗による圧縮こそが膨張熱を生み、発火に繋がるのだ。


 真っ直ぐに。

 ただ真っ直ぐに、ダイビングするような格好で頭から炎に包まれる変態。


 『空間』というものを『何もない』と表現する者が後を絶たない。


 違う。

 『空間』には『大気』があるのだ。


 真の強者はこの『大気』を操る者を言う。


 地上に住まう全ての物は大気内を移動している。この事実に気付かない者は強者にはなれない。


 変態は気付いていた。

 大気との摩擦が抵抗を生じて技の威力を殺すということを。


 そしてまた変態は気付いていた。

 大気の圧縮から熱を生じ、膨張からは冷気を生じさせることを。


 だから変態は大気を味方に付ける。


 大気の隙間を見抜く力。

 また、自ら大気の隙間を作る力。

 そして大気を膨張、圧縮させる力。


 この3つの力を変態は身を持って知っていた。


 本来ならば加速するスピードに対して圧縮された大気の熱は、生身の身体などあっという間に焼き尽くしてしまう。それは宇宙から大気圏突入して来る隕石を見ても明らかだ。


 3万メートルを落ち行く変態の速度はマッハ10を超えていた。


 なぜ変態は燃えないのか?


 それは先に喰らったブルードラゴンに関係する。


 直腸からダイレクトにブルードラゴンの栄養を喰らった変態は、その体内栄養構成成分から冷気を作る要素を発見していた。それを熱量の高い肉体部位に配備したのである。


 恐るべきはこの変態。それを無意識に行うということだ。


 その生体構造すら変化させる。すなわち変態は真の『変態』なのだ!


 しかし発火した熱により、変態の髪はウーピーゴールドパークのようなチリチリのアフロに変化を遂げた。


「はっこう、はっこう、おに~のパンツ~♪」


 変態は意に介さない。

 先に地面が見えてきた。


 ドガァンッ!


 変態はそのまま地面へ衝突。土煙を舞い上がらせた跡には大きなクレーターが出来ていた。


 事無げに変態は立ち上がる。辺りは真っ暗だ。


「変態アイ!」


 変態は薄目にして辺りを見回した。変態の目は暗闇でもよく見える。


 大きな広場のような穴の底、壁はヌメヌメとしている。そして…目の前には巨大なスライムが変態の前に立ちはだかっていた。


「…貴様が強者か…?」


 辺りの壁から漏れ出すヌメヌメを吸収してスライムはどんどん大きくなっていく。


 ボン!


 スライムの胴体から粘液の玉が発射された。


 バシャン!

 ジュウゥゥゥ…


 変態の身体に当たり弾けた粘液はまとわりつき、変態の肌を焼く。


「お…!?おぉ!酸のシャワーか!?なかなかいいぞッ!」


 変態はブルッと身を震わせると頬を桜色に染めた。


 変態だ。


「酸はいいッ!なぜならば殺菌作用があるからッ!」


 ドンッ!ドンッ!


「ハゥッ!ホゥッ♥」


 矢次早にスライムは粘液を放出する。変態は自らの身体が火傷のようにチリチリと焼けていく姿に身悶えている。それは変態だからだ。


「ムゥッ!ムゥッ!酸のシャワー!殺菌!いや、滅菌だ!」


 ドロドロの酸の粘液に身を焦がす変態。


 スライムは変わらず粘液を放出し続ける。スライムの粘液は洞窟の壁から産生され続けていた。


 つまり!このエリア全体が、このスライム!敵だということだ!


 ダンジョンを守る守護者として使わされた巨大スライム。


 猛毒の酸の前に敵はいない。全てを溶かし、栄養として取り込む。


 しかし目の前のアフロな変態は違う。


 いや、焼けてはいるのだ。ジュゥジュゥと肌を焼いている。しかし変態アフロはそれを逆に身体中に塗りたくる!


「ここから出たら初夜かも知れぬからな…念入りに…念入りに…」


 キツイ!

 初夜に酸の粘液をまとった変態アフロはキツイ!匂いも酸っぱい!それ以上に溶ける!初夜なのに、相手、溶ける!

 『とろけるような初夜』ならいいが、リアルに溶ける環境は良くない。しかし変態はだからこその変態なのだ。


「ム!」


 ポイズンシャワーを浴びる変態アフロは気付いた。


 内臓こそ滅菌だ。


 そう思った変態はスライムに向けてお尻を突き出すと、極小ブーメランパンツに指を引っ掻けてほんの少し肛門を露にした。


「ここだ!ここを狙え!」


 スライムは分からない。

 ただ目の前の侵入者を駆逐する為に粘液を吐き出し続ける。


 ドンッ!ドンッ!


「ハゥッ!ホゥッ♥

 いいッ!いいぞッ!」


 ズグン、ズグンと変態は肛門から粘液を取り込んでいく。


 内臓を焼く感覚に身悶える変態。


「いい!これはいいぞ!」


 ズイ…ズイ…


 変態はスライムとの距離を詰めていく。変態の欲しがりは遂にスライムとの距離を0センチまで進めた。


 スライムは粘液の集合体。基本的に明確な意思は無い。


 しかし、この時にスライムは明確に『恐怖』を覚えた。


 進化したのだ。


 危険察知能力と進化は密接な関係にある!


 つまり『変態=進化』とも言えるだろう!


 変態はそうやって相手を進化させ、それを駆逐し自らの糧としていた。


 だから!

 だからこそ!


 変態は最強なのだ!


 恐怖した生物はどのような行動を取るのか?


 その答えにこのスライムは更なる攻撃の追撃を高めた。



 ドドドドドドドド!!


「いいッ!

 いいぞォッッ!!」

 

 巨大なスライムに肛門を押し付けて衝撃にバイブレーションし続ける変態。


「くゥ!キクゥッ!」


 スーパー銭湯の打たせ湯(強)のように耐える変態。


「よし、仕上げだ」


 そう言うと変態は目をカッ!と見開いた。


「ウオオオオオーッ!」


 ズズ…ズズズズズズズズ…

 ズグンズグンッ!!

 ズグンズグンッ!!


 変態はスライムを吸収し始めた。


 みるみる内に小さくなるスライム。気が付くと辺りの岩肌からの粘液は涸渇し、カッピカピになっていた。


 ズグンズグンッ!


 なすすべもなくスライムは吸い取られ続け、遂には手のひらサイズになった。


 チュポン


 変態は肛門からスライムを放す。そうしてスライムを掴むと両手でワシャワシャと撫で付け、まるでヘアワックスのように頭へ撫で付けた。


 銀色のアフロは緑色に染まり、爆発したサザエさんのようになっている。


「これでよし」


 初夜への身支度は整った。

 変態はスライムの後ろにあった洞窟の奥に向かってスキップしだした。

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