Black and White

「どうしたんですか?そんなつまらなそうな顔をして」


私の住処に1人の旅人が訪れた。

黒い毛皮を着た尻尾と耳の無い、変わったフレンズ。

何故か初めて会ったのに、昔どこかで会ったような不思議な感じがした。


「え?...そんな顔してますか?」


あまり、自覚は無かった。


「僕には、何となくわかる」


自信があり気な言い草だった。


「...正直に言ってくださいよ。僕も同じ、孤独ですから」


少し不気味な気もしたが、悪い人には見えなかった。


「あなたが言った通り、確かに少しつまらないです。友達も最近来てくれないし。

後、なんかすごい大切な事を忘れてるような気がするんです」


「大切な事ね...。僕もそうなんだ。

すごい、大切な事を忘れてる」


「そうなんですか」


凄くそういう風には見えない。


「だから、こんな世界から早くいなくなりたい。

君も、そう思わない?」


「...あなたはいなくなりたいと思うんですか?」


「今、ここはとても居心地がいいけど、僕は悪いところを知ってしまった。

同じ仲間なのに。同じ仲間同士、罵倒し合ったり、騙し合ったり。

おまけに、違う仲間同士とも、仲良くやれない。幻滅したんだ。

同じ種族であることが、恥ずかしいんだ。こんな世界から、居なくなりたい」


「私は...、誰かに裏切られたような気がします。

遠い記憶の中ですけど。具体的な事はわかりませんけど。

そういう記憶が偶に蘇るんです。

そのたびに私なんて無視される程度の存在だったんだって思って。

いなくなりたいって思ったことはあります」


ふうん、と何やら分かったような反応を示した。

すると。


「一緒に、死なない?」


そう持ち掛けられた。何も、言えない。


「君は誰かに裏切られたんだよね。

僕は親友を裏切った。自分の為に。

そして、僕の生きる目的は、間違った方向へ進み続けている。

同種への攻撃。それを実現させるが故フレンズをも利用した...。

結局、自分自身が幻滅する物になりかけている。

自分が嫌悪していた存在になるのが嫌でね。...って、長ったらしくてごめん」


「...」


「端的に言うと、

僕は親友に見せる顔も無いし、自分が嫌な存在の一部になりかけてるのも嫌なんだ。

...君も、こんなつまらない世界は嫌でしょ?

自分を裏切った人物がまだこの世にいるんだよ?」


持ち物の中から、刃物を取り出すと。


「死のうよ」


ゆっくりと刃物を私に近付けた。


「...待ってください」


左手に刃物を持った手は止まった。


「それって、逃げですよね?」


驚いたように、低い唸った声が聞こえた。


「自分が今いる現実から、逃げてるような気がします」


黙って私の顔を見ているので、話をつづけた。


「私、臆病ですから、色々な物から逃げてきました。

けれど...、今になってちゃんと、嫌な事でも受け入れなきゃなって...。

そう思ったんです」


「そう...、なんだね」


「...はい」


そう言うと、刃物をこちらに向けるのをやめた。


「...我慢することも大事なことだよね。

今更、過去を変えることなんて出来ないけど、

未来を変えることはできるもんね」


涙をグッと堪えた様な声で言った。


「少し、怖い事かもしれません。

けど、逃げてばかりじゃ、何も進まない、そう思います」


改めて言った。

刃物を仕舞うと、立ち上がった。


「やり直せるかどうか、わからないけど。

...、君と話せたから少し持ち直せたよ。

ここにいるより、あっちにいた方がいいと思うよ」


指をさして場所を示した。


「え、何でですか?」


「君の親友、あそこを通るはずだから。

あの子たちは、あの時の僕らの様に、君を裏切らない...。

脅しちゃって本当に、ごめんね」


「...どういう意味ですか?それにあなたは...」


「僕も、嫌な事から逃げずに、少し立向ってみるよ。現実と。

自分の責任を果たさなきゃね。

...、もう大人だから。ありがとう、アードウルフ」


どこで私の名前を、と言いたい所だったが、そうは尋ねなかった。

あの人が知っているという事は、私も知っているのだ。


記憶のどこかにあるハズだ。埃を被ったその遠き日の記憶が。

でも、過去のことはそれ程重要じゃない。

大事なのは、今をどう受け入れるか。






遠くの大地に消えてゆく。

白い鞄を背負った後ろ姿を、ひたすらに見つめ続けていた。

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