ヒューマンエラー

「かばんさん」


漆黒の世界で僕に語り掛けて来たのは、

アライさんだった。


「・・・どうしたんですか?」


彼女は悲しそうな目で僕を見つめた。


「アライさんはこの世にいちゃダメなのだ?」


「いきなり...、何を言ってるんですか」


沈黙したまま、悲しそうな目をずっと向ける。


「アライさんは・・・、死んだ方がいいのだ?」


「な、何をバカなことを・・・。

フェネックさんが悲しむじゃないですか!!」


「・・・かばんさんが、言ったのだ」


「...え?」


彼女は何も言わなかった。


「アライさんは、死ぬのだ」


「ちょっと待ってくださいよ...!」


「それが、“望み”なのだ」


彼女は白い団子の様な物を何処から取り出した。

それを口にした。


「ゲホッ、ゲホッゲホッ」


唐突にむせ始めた。


「アライさんっ!!!」


「ガハッ...」


血を吐く。

信じられない量の。


「アライさん・・・!アライさん・・・!」






「...!!」


目が覚めた。


「夢・・・」


あんな悪い夢を見たのは初めてかもしれない。

もう、見たくはない。


そう思っていたが、夜は巡ってくる。











「かばん」


また、嫌な予感がした。

漆黒の世界、僕を呼ぶ名前。


今度は...。


「タイリク...、オオカミさん...」


しかし、昨夜のアライさんとは違う。


酷く、激しい怒りのこもった様な目。

鋭く睨んでくる。研ぎ澄まされた剣の様だ。


「先入観が私達を、虐げる」


「・・・はい?」


僕が疑問に思った時、彼女の頬に一筋の傷が出来る。


「えっ...」


「君には自覚が無いのか」


彼女の体から、赤い物が徐々に滲み出してくる。

適当な言葉が見つからない。


「思い込み、恐怖心、それは、拭えない

如何にも自己中心的だと思わないかい?」



「・・・・」



「失われているんだ。君のような、理不尽な存在のせいで」



僕は彼女の言っていることが、一切理解できない。



「何も理解できていないという顔をしているね。

君は現実から目を背けている。これほど残酷なことはないよ」



「タイリクさん・・・」


か細い声で彼女の名を呼んだ。しかし、不気味に笑うだけだった。



「ふっふふふ...。そういう君が...」



“嫌いだよ”



彼女は気が付くと炎に包まれたように真赤になった。




また僕は、怖い夢を見た。


あの赤く染まり行く、彼女の姿が脳裏に色濃く焼き付いている。

僕の顔にはいつの間にか、涙が流れていた。


どうして僕は、怖い夢をみるんだろう。










僕は、夜を迎えるのが怖くなった。

しかし、寝られずには、いられなかった。

自分の体は自分の意志に背く。


また、真っ暗な世界だった。


「・・・かばん」


目の前にいるのは、トキだった。

しかし、何故だろう。彼女の声は酷くノイズが掛かったような感じで、

聞き取りにくい。



「トキさん・・・?」



「ナカ・・・して・・・」



「なにを・・・」



どんどん雑音が酷くなる。耳が痛い。

彼女が僕に近づく。怖い。



「かえ・・・シテ・・・」


耳を塞ぎ、目を閉じた。しかし、音は無くならない。


「いやっ!!」



「ナ...カ...マ...カ...エ...シ...テ...」


「ああっ...!!」


低く、唸るような声とともに、首を絞められる。


苦しい・・・


苦しい・・・


苦しい・・・






「がはあっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


胸に手を当て、呼吸を整える。

窓の外には明るい太陽が昇っていた。


とてつもなく、眩しかった。


僕は、僕はいったい何をしたんだ?

僕は、僕は何を・・・?









「カバン」



今度の夢は、ラッキーさんだった。

ラッキーさんなら・・・



「キミハ、ヒトダ」


僕は声を出せない。



「ヒトハ、ツミヲセオッテイルコトヲ、ワスレチャダメダ」


「ジブンカッテダ、トイウコトヲ、ワスレチャダメダヨ」


「カバン、ワスレナイデネ。アヤマチヲ」






僕は、その夢以来、怖い夢を見なくなった。

あの夢は何だったのか。


人としての、罪、過ちとは、何か。







僕にはわかるようで、わからない。

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